高齢者が自分らしくいきいきと過ごすための7つの秘訣

経済界11月29日号 特集 安心できる老後

経済界111129_表紙2  日本のような高齢社会は、放っておいたら認知症や運動器障害でどんどん要介護の人が増える。財源には限りがあるので医療費・介護費は無尽蔵に増やせない。だから、必要なのは、そういう人を増やさないこと。つまり予防が大切だ。

私は東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターに籍を置き、高齢社会の問題解決に取り組んでいる。年を重ねるごとに賢く、より良い生き方をしていこうというのがスマート・エイジングの思想である。

高齢者が自分らしく元気にいきいきと過ごすためには、以下の7つが大切だ。

まず元気でいるために、1つ目は、身体の健康が必要。そのためには有酸素運動が大事だ。要介護や寝たきりになる原因の上位は脳血管性疾患、認知症、転倒骨折や膝や腰などの運動器障害だ。脳血管性疾患の原因は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病である。だから、生活習慣病を予防するには体内の脂肪を燃やす有酸素運動が効果的だ。心拍数を100~110くらいに保つウォーキングがお薦めだ。

2つ目は、筋肉トレーニング。年をとると、特に運動して鍛えていない限り、筋肉は衰える。特に下半身の筋肉が衰えやすい。しかも男性よりも女性の方が衰えやすい。その結果、転倒・骨折しやすくなる。これを予防するには下半身の筋肉、特に腰の奥にある大腰筋を鍛える必要がある。この筋肉を鍛えると、歩くときにつま先が上がるようになり、転びにくくなる。ウォーキングだけではこうした筋肉は鍛えられない。

3つ目は、脳のトレーニング。人間が対話や思考など人間らしい行動をするのに重要な役割を担っているのは脳の前頭前野という部位である。ところが、認知症の人は原因疾患にかかわらず前頭前野が働かなくなっている。健康な人でも、高齢になると前頭前野の働きが鈍ってくる。手書き、音読、簡単な計算を、コミュニケーションを取りながら行う学習療法は、前頭前野を含む脳の多くの部位を活性化する。認知症の改善に有効であり、健康な人の脳機能の維持向上にも効果がある。経済界111129_2-1_2

次にいきいきと過ごすために、4つ目は、年金以外の収入を得ること。高齢者は一人暮らしが多くなり、引きこもってうつになりやすい。何かというと後ろ向きに考えがち。これを防ぐには、仕事をして年金以外の収入を得るのが良い。良い例が、おばあちゃんの葉っぱビジネスで有名になった、徳島県上勝町の「いろどり」だ。刺身のつまなどを自宅の裏の畑などで栽培している。町には約2300人の人口がいるが、寝たきり老人は2人しかいないそうだ。自分たちの身近なものでお金を稼げて、工夫すれば収入が増える。そういう生活環境にいると、生活に張りが出て元気でいられる。

5つ目は、他人の役に立つこと。前掲の学習療法を健康な人の認知症予防に応用している脳の健康教室では有償の市民ボランティアが、学習サポーターとして活躍している。サポーターの多くは主婦。退職した男性もいる。お金の報酬は少ないが、年長の学習者から感謝され、学習者から多くの気づきを与えられる。こうした機会は大きな成長機会であり、心理的報酬となる。主婦は人から感謝される機会が少ないし、男性も退職すると、人から必要とされる機会が減る。だからこうした活動がとても良い刺激になる。

6つ目は、明確な目標を持つこと。最近の脳の研究により、年をとったとしても脳の働きは必ずしも落ちていくとは限らず、むしろ発達する可能性があることがわかってきた。米国の例だが、95歳で大学を卒業し、98歳で修士号をとった女性がいる。一方、中度の認知症だった女性が学習療法により認知能力を回復した後、99歳で生涯初めて英語の勉強を始めた。多くの英単語を覚え、外国人に対して会話もできるようになった。経済界111129_2-2_2

こうした例は特殊に聞こえるかもしれないが、実はそうではない。普通の人との違いは、「具体的な目標」を持って日々を過ごしているか否かだ。「95歳で大学を卒業する」「100歳までに100個の英単語を覚える」といった具体的な目標設定をすることで、日々の生活に張りやリズムが出て、前向き思考になり、潜在能力が発揮されやすくなるのだ。

最後に、自分らしく生きるために、7つ目は、好きなことに取り組むこと。運動音痴だった女性が、あるきっかけでマラソンを始め、72歳で完走したら賞状をもらえた。いくら家事をやってもほめられることはなかったが、これが嬉しくて走るのが大好きになり、死ぬまで走り続けたいと思うようになった。

自分らしさとは自分では気づきにくい性質のもの。ところが、好きなことにずっと打ち込んでいると周囲の人に「あなたらしい」と言われるようになる。だから、自分らしく生きたいと思うなら、好きなことに取り組むのがよい。好きなことが分からない人は、まず、それを探すことだ。

こうして1人ひとりが元気にいきいきと暮らし、要介護状態にならなければ、医療費も介護費も少なくなる。そうすれば、これらの増加を理由とした増税は不要になる。筋トレ、脳トレを継続すれば寝たきり・要介護状態が予防できる。それだけでなく、気持ちが明るくなり、活動意欲が湧いて、旅行に行く、買い物をするといった需要を喚起する。結果、経済は活性化する。これこそが人間本来の姿だ。こうした姿を見れば、次の世代も見習おうとして社会に良い循環が生まれる。高齢者が増えたら医療費・介護費を増やすという発想より、予防に重点を置き、人間の「生きる意欲」を促すことに注力すべきである。7つの秘訣の1つでも良いことだと思ったら、すぐに行動に移してほしい。()

あわせて読みたい関連記事


タグ


このページの先頭へ

イメージ画像