シニアエンジェルの"浄財"が起業家を育む

スマートシニア・ビジネスレビュー 2002129 Vol. 23

images_出光佐三一般にベンチャーキャピタル(VC)は創業を目指す起業家への最初の資金提供者とみなされています。しかし、相応の売上高がある、あるいは社会的注目度が高いなど「ある程度の実績・期待値」がない企業には通常VCは投資しません。

 

したがって、創業1年以内程度のスタートアップ企業に対するVCからの投資は極めて少ないのです。会社立ち上げ期で最も資金的支援を必要とする時期に投資されにくいというのが日本のベンチャービジネス立ち上げ期の皮肉な現実です。

 

このようなスタートアップ企業に対して、個人投資家(エンジェル)とのお見合いの場を通じて出資機会を作る動きが盛り上がっています。東京青山に本部を置く任意団体の日本エンジェルズ・フォーラム(NAF)がその中心。NAFは日銀出身でIMFや国際決済銀行に勤務経験をもつ井浦幸雄さん個人のパソコンネットワークから始まった草の根グループです。

 

エンジェル投資家には60代、50代のシニア層が多く、増加しているのが特徴です。最近のNAFによる調査では、エンジェル100人による過去5年間の投資総額は14億円。つまり一人あたり1400万円投資したことになります。

 

総務省「平成12年貯蓄動向調査」によると、日本人の年齢別金融資産残高は65歳以上で平均2500万円。一方、投資家の金融資産高は3000万円未満の層が44%と最大となっています。意外なことにエンジェル=スーパーリッチというわけではないのです。

 

そのような「ほぼ普通の人たち」が保有する個人金融資産の約半分をスタートアップ企業に投資していることになります。

 

なぜ、スーパーリッチでないシニアがエンジェル投資をするのでしょうか?

 

NAFにおけるエンジェル投資の実態をみると、さらに興味深いことに気づきます。

 

まず、年度ごとの投資案件数・金額をみると、ITバブル崩壊後の2001年度も前年度比で案件数は落ちてなく、投資金額は増加していることです。世のVCITバブル崩壊後に投資案件数を大幅に減らしているのと対照的です。

 

次に、エンジェル投資家の職業をみると、「会社社長・自営業」が多いのですが、近年は「会社員」あるいは「無職」の割合が増えていることです。投資家のコメントに「退職金をもらった後初めてエンジェル投資をした」というのもありました。

 

また、投資案件に対する現時点での評価については「投資時点より成長した」と認識されている案件が45.8%あり、「将来を楽しみに保有を継続」する人が69.2%と圧倒的に多いことが目立ちます。

 

これらから言えることは、エンジェル投資家の目的が「早期株式公開によるキャピタルゲイン狙い」というよりは「スタートアップ企業の長期的応援を通じた社会貢献」という側面が強いことです。

 

実際、「エンジェル投資は寄附と同様。キャピタルゲインなど頭にはなく、自分の資産を少しでも役立ててもらいたいとの気持ちで投資を考えている」「日本経済の建て直しには、ベンチャーの育成が絶対に必要で、従来の景気対策ではだめ。VCとは違い、エンジェルは暖かい資金の提供者である」といったコメントが目立ちます。

 

私は、NAFを中心としたエンジェルの人たちのこのような姿勢を知ると、日本でも名経営者となった人は、創業時にエンジェルが大きな支援者になっていたエピソードを思い出します。

 

日本の石油業界の発展に大きな金字塔を打ち立てた名経営者に出光興産創業者の出光佐三がいます。

 

この出光佐三は、当時関西でトップクラスの神戸高商(後の神戸大学)を出ながら、同窓生が官僚や大銀行、商社の道を選ぶのと対照的に、丁稚奉公に入るという異色の選択をしました。将来商人として独立自営するための修行を積むために、当時最高の学歴を持ちながら敢えて丁稚の道を選んだのです。

 

しかし、独立自営の志をもって、いざ、踏み出したいと思っても、家業が倒産し、家族は全く頼れない。奉公先の商店にもとても出光氏を支援するような余裕はない。そんな時に、思いがけず支援の手を伸ばしてくれたのが、高商在学中の下宿のそばに住んでいた日田重太郎という人でした。

 

ある日、日田氏から「京都の別荘が売れたので、その代金を元に商売をしてみてはどうか」といわれ、当時(明治44年)としては大金の8千円を渡されました。 その際、日田氏は「この金は返すに及ばぬ、借用証書など入れる必要はない、利子もいらない。ただ、あくまで主義を貫け。家族仲良く暮らせ」と諭され、その資金の恵与についても「他言してはならぬ」と堅く口止めをされたのです。

 

この資金をもとに、出光商会を立上げ、幾度の苦難を乗り越えて日本を代表する大石油会社を作り上げたのは歴史が示しているとおりです。

 

その後の度重なる苦難に対しても、日田氏は徹底的に出光氏を援助、激励し続け、あるときは自己の全財産を提供し「出光とならば共に乞食になっても構わぬ」とまで極言して肯んじられなかったといいます。

 

このエピソードは極端な例なのかもしれません。

 

しかし、個人のエンジェルの思いのこもった"浄財"は、その金額の何倍もの勇気を起業家に与えてくれるという点で、その精神性において明治時代も現代も不変であると私は思います。

 

NAFの活動から、未来の出光佐三が生まれてくるよう、私も微力ながら応援させていただきたいと思います。

 

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