スマートシニア・ビジネスレビュー 2005年8月16日 Vol. 73

OLYMPUS DIGITAL CAMERA         私はこれまで拙著「シニアビジネス」はじめ、多くの新聞・雑誌でナノコーポ(nanocorp)という超ミニ企業がアメリカだけでなく日本でも50代から60代に増えている、ということを語ってきました。

ナノコーポとは、微細を意味するナノと法人のコーポレーションとの造語。

ナノコーポの定義は「Convergence of worker and company」。つまり「働く人」と「会社」とが一体化することです。社員が一人でも法人形態をとり、個人事業やボランティアとは一線を画します。

旧来型の会社組織ではなく、自分のこれまでのキャリアを活かし、
自分のやりたいことを仕事にして、他人に雇われずに、
収入を得ながら働き続けるスタイルです。

ナノコーポという言葉には、
「あくまで自分サイズの事業規模にこだわり、
拡大を目指さない」という意味が込められています。

アメリカ国勢調査局は、2002年現在で従業員がいない会社のオーナー、
つまりナノコーポを1760万人と見積もっています。
この数字は、アメリカの労働人口の約13.5%に相当します。

最近、日本でも団塊世代の定年による大量退職後のライフスタイルが
話題に上ることが多いのですが、定年制度のないアメリカでは、
日本の定年60歳より前の年齢で、
第二、第三の人生を選択する人が大勢います。

ナノコーポの業種には、コンサルタント、広告・PRクリエーター、 ライター、
プログラマー、ファイナンシャル・アドバイザー、不動産業、住宅ローン業などが
比較的多い。 もともと独立自営の人もいますが、
近年の傾向は、それまで勤務していた大手企業を退職して
独立した元サラリーマンが増えていることです。

世界最大の高齢者NPO、AARPの調査によれば、
日本の団塊世代にあたるベビーブーマー(1946年から64年生れ)の8割は
65歳を過ぎても働きたいと考えています。
サラリーマン退職者のナノコーポが増加しているのは、
こうした背景があります。

このように増加するナノコーポという働き方の意義は、
一体何でしょうか。

ナノコーポとは、大組織でサラリーマン生活を経験した人が、
組織の力ではなく、個人の力で、自由に働くためのスタイルです。
それは、主人のいる「小作農」の立場を辞め、
自分の土地で自分のために農業を営む「自作農」に似ています。

自作農では、自分自身で畑を開墾し、耕し、種を植え、水と肥料を撒く。
雑草が生えれば、自分で刈り取り、虫がわけば、自分で消毒します。
そこに何の種を植えるのか、どういう形態の畑にするのかも、
全て自分の選択です。

そして、上手く実れば収穫は全て自分のもの。
逆に実らなければ、収穫はありません。
全てが自分の選択であり、誰かに依頼されたり、
強制されたりしてやるものではありません。

自由には、必ず責任が伴います。
ただ、その責任が、会社の都合で与えられたものなのか、
自分の主体的な選択なのかで、納得感が大きく異なるはずです。

これまで書籍・新聞・雑誌で述べたとおり、
ナノコーポという働き方には、メリットもデメリットもあります。
大企業に居残り続けるか、それとも、ナノコーポを選ぶかは、
結局、個人の価値観の問題です。

ただ、私がアメリカで出会った多くのナノコーポたちは、
自分自身で自分の働き方を選択できる自由を
心から楽しんでいるように見えました。
私の友人が語っていた次の言葉が、今も印象に残っています。

「大企業を辞める前は、いろいろと不安もありました。
でも、やってみると、意外に何とかやれるものなんです。
むしろ、組織に頼らなくなってからの方が、
自分自身や自分のビジネスについて、
以前より深く考えるようになりました」

日本では、「起業」というのは、一般にリスクが高いと思われています。
ましてや、定年前後の年齢で起業するのは、それなりの資金と共に、
相当な覚悟が必要だというイメージがあります。

しかし、実際にナノコーポを立ち上げた人たちを見ていると、
逆に、自分の生き方を自分で決定できることで、
むしろ、リスクが低くなっているように見えます。
リスクというのは、最低ラインが見えたら、それ以上のリスクはないからです。

仮に、65歳まで今の会社に居続けるとしても、
その後の生き方をどうするかという課題は必ずついて回ります。
自分の好きなことをしたいと思うならば、
なるべく早いうちに始めた方がよいでしょう。

たとえ会社は定年でも、人生の定年にはしたくないという人にとって、
ナノコーポという「現代の自作農」は、面白い選択ではないでしょうか。

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