スマートシニア・ビジネスレビュー 2013年11月13日 Vol.197
11月8日の日経朝刊・消費面に「シニアの財布SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で緩む 同年代で旅行/カメラ機種競う 趣味の仲間集い奮発」という記事が掲載されました。
記事の要旨は「旅行やスポーツなど、60歳前後の中高年が交流サイト(SNS)への参加をきっかけに趣味への支出を増やしている。インターネット上では同世代の同好の士を集めやすい。仲間で集まると、奮発する人もいる。資産が比較的多いとされるシニア世代の消費拡大につながりそうだ」とのことです。
しかし、実態はこの記事ほど単純ではないでしょう。
シニアの消費行動で重要なのは、対象とする商品・サービスに対する「信頼度」です。そして、SNSを介したやりとりでの、商品・サービスに対する信頼度とは「情報発信者の信頼度」に他なりません。
一方、情報発信者の信頼度は、「情報発信者の専門性」×「情報発信者との関係性」で高まります。
SNSのメリットは、「情報発信者の専門性」を切り口に、未知の多数の人たちとでも知り合えることです。たとえば、ワインが好きな人は、SNS上でワインの話題をしている人たちとの対話に参加すれば、知り合うきっかけは容易に得られます。
しかし、こうしたきっかけが容易に得られたからといって、すぐにワインの消費につながるわけではありません。その理由は「情報発信者の信頼度」が、まだ高くないからです。そして、情報発信者の信頼度が高くないのは、知り合って間もないために「関係性」が浅いからです。
このように、SNSでの交流が消費拡大につながるというのは見方が単純すぎるのです。
たとえば、私が新たにタブレットを入手したいと思った時、どのメーカーのどんな機種がお勧めなのかの情報が欲しい。この場合、信頼度の高い情報発信者になるのは、IT系企業に長年勤めている旧知の友人です。
その理由は、まず、ITの世界で何十年も飯を食っている彼は、やはりIT分野での土地勘があります。だから、彼の業務分野と多少ずれていることを尋ねても、彼からのアドバイスは常に的外れなことはなく、非常に助かります。
そして、何十年にも渡って付き合っている旧知の友人との関係性の深さは半端ではない。SNS上で知り合って間もない人とは、関係性の深さは比べ物になりません。
だから、商品提供側がSNSを消費促進ツールにしたいのなら、「情報発信者としての専門性」を高めるだけでなく、「情報受信者との関係性」を深めなければいけないのです。
情報受信者との関係性を深めるには、いろいろな方法があります。しかし、どの方法でも共通に言えるのは、情報受信者との関係性を深める「即効薬」はないことです。
SNS自体はあくまでツールです。即効薬にはなり得ません。にもかかわらず、私たちは新しいSNSが登場すると、つい、即効薬としての効能を期待してしまいがちなのです。
日本経済新聞 2013年11月8日朝刊