不動産経済 連載シニアシフトの衝撃 4 

個人金融資産内訳2011意外に知られていない個人金融資産1400兆円の中身

 

よく新聞などで「日本の個人金融資産は1400兆円」あるいは「1500兆円」などと言われる。この数値は、日銀の資金循環勘定の数値を引用したものである。

 

ところが、この1400兆円のなかには負債残高が含まれていない。このことは新聞ではまず説明されることはないため、一般にはほとんど知られていない。

 

さらに、この数値には、①企業年金等に関する年金準備金、預け金(ゴルフ場預託金など)、未収金(預貯金の経過利子など)といった、一般に個人が必ずしも金融資産として認識しないようなものが含まれているほか、②個人事業主(資金循環勘定では家計部門に含まれる)の保有する事業性の決済資金などの資産も含まれている。

 

個人金融資産に、これらの①②が含まれるのは金融分類的には理解できるが、一般庶民の感覚からすると「個人金融資産」という言葉から受けるイメージとはかなりの乖離がある。

60歳以上の人の「正味金融資産」の合計は482兆2884億円

 

一方、総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)のデータをもとに算出すると、すべての年齢階級の「貯蓄」の総額は796兆7383億円となる。さらに、「家計調査報告」によれば、1世帯当たり「正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)」の平均値は、60代で2093万円、70歳以上で2145万円。

 

一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成22年(2010年)によれば、世帯数は60代で1083・6万世帯、70歳以上で1191・1万世帯である。これらより、60歳以上の人の「正味金融資産」の合計は、482兆2884億円となる。

 

このように日銀の資金循環勘定の数値と家計調査報告をもとにした数値とでは、数値の種類が異なるので単純比較はできない。しかし、私は後者の数値の方がシニア市場を正確に理解する観点から現実的であると考える。その理由は、家計調査と言うミクロな調査をベースにしていること、貯蓄から負債を引いた「正味の」金融資産の数値であることによる。

 

シニア資産30%の消費は、国家予算1・6倍分のインパクト

 

さて、60歳以上の人が保有する正味金融資産合計482兆2884億円のうち、仮に正味金融資産合計の3割、144兆6865億円が消費支出に回ったとすると、2011年度の一般会計90兆3339億円の1・6倍にもなる144兆6865億円という金額が実体経済に回ることになる。

 

ちなみに、先に挙げた正味金融資産(2010年)の平均値は、50代では1109万円、40代では142万円とシニア層に比べて金額が小さい。30代ではマイナス226万円(つまり、貯蓄より負債のほうが大きい)、30歳未満ではマイナス48万円となる。

 

シニア層に比べると若年層の正味金融資産はかなり少ない。だから、若年層の正味金融資産が消費に回ることはあてにできない。若年層の消費は資産ではなく、所得(フロー)から回るのである。

 

ただし、シニア層が正味金融資産を多く持っているからといって、それがすべて消費に結びつくわけではない。また、先行き不透明感がますます強まるなかで、60歳以上の人すべてに正味金融資産の3割どころか、2割を消費に回してもらうことすら現実的でないという意見もあろう。

 

2014年はさらなる「企業活動のシニアシフト」が重要となる

 

2014年には団塊世代の最若年層がいよいよ65歳で定年を迎える。4月には消費税増税があり、アベノミクスで上り調子になってきた消費が減速するという見方もある。しかし、多少消費を控えたとしても、たとえば、退職直後は必ず旅行などにそれなりのお金を使う。何と言ってもこの層は他の年齢層に比べ正味金融資産が大きい。

 

とはいえ、こうした資産は将来への備えでもあるので、むやみやたらと消費しない。売る側は、顧客の心理をよく理解したきめ細かい工夫が必要。そうしたそれができれば、ビジネスチャンスはまだまだたくさん眠っている。

 

だからこそ、ここに「企業活動のシニアシフト」の大きな意義がある。商品の売り手である企業が積極的にシニアシフトに注力することによって、買い手であるシニアは、より価値の高い商品や利便性の高いサービスを得られるようになる。

つまり、シニアが必要としていたが、これまで市場にはなかった、より付加価値の高い商品・サービスが多く登場するようになる。すると、「そう、こういう商品が欲しかったのよ」という機会が増え、結果としてシニアの消費も増えると予想される。

 

シニアの消費が増えれば、企業の売上げ・収益が増え、業績が向上すれば、法人税などの税収も増える。また、消費税収も増える。この結果、国の税収が増え、財政改善に寄与することになる。財政が改善されれば、ギリシャのように財政破綻することもなく、国際的信用を維持でき、シニアも安心して老後を過ごせるようになるのだ。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃