不動産経済 連載シニアシフトの衝撃 第7回
IT機器が普及すると市場の情報化がどんどん進んでいく。すると、市場がガラス張りになり、商品の売り手はごまかしが効かなくなる。ネットで見れば、ほとんどのモノが、どこで、いくらで売られているかがわかってしまう。
最近は「ショールーミング」と呼ばれる消費行動を取る人が増えた。これは、ネットであらかじめ欲しい商品の情報を調べたうえで、店頭で実際の商品を手に取って確認し、店員に価格を尋ねたうえで、ネットで購入するというものだ。
情報武装した「スマートシニア」もこのように、ネットを縦横に活用して情報収集を徹底し、商品をじっくり吟味して決して衝動買いをしない。特に高額商品はその傾向が強い。
こうした「スマートシニア」が増えていくと、簡単に商品が売れにくくなる。すると市場は「売り手市場」から「買い手市場」になっていく。その結果、従来の売り手の論理や常識が通用しなくなる。
たとえば、有料老人ホーム市場は、従来の常識が覆った市場の典型である。数年前の常識は、数年後には通用しない。そうした事例が数多く見られる市場だ。
2025年は高齢化の観点で大きな節目
2020年は東京で再度オリンピックが開催される年として多くの人が知っている。しかし、社会の高齢化の観点では2025年が大きな節目の年となる。その理由は、団塊世代の最年少者が75歳を超え、後期高齢者の仲間入りをするからだ。
「後期高齢者」という言葉は評判が悪いが、医学的にはそれなりの意味をもつ。というのは、75歳を境に入院で治療を受ける受療率、要介護認定率、認知症出現率などの増加ペースが急増するからだ。つまり、75歳を過ぎると要支援・要介護者の割合が一気に増加するのである。
<図表1>は2025年の女性人口と要介護人口の予測数だが、男性も同じような推移をたどる。そこにネット利用率の予測を合わせている。例えば83歳では要介護者とそうでない人の割合が50%ずつ。そしてネットの利用率は45%に達する。この数値はほぼ50%であり、IT機器普及の観点から言えば、ほとんど普及段階といってよい。つまり、2025年には、高齢者でもネット利用が当たり前の時代になる。
すると流通業界において高齢者のネット通販利用が劇的に増えることが予想される。現在、高齢者の通販の利用と言えば、折り込みチラシやテレビ通販の利用がせいぜいだが、それがネットにシフトしてゆく。
シニアがネットをどんどん使うようになれば、小売業は転換期を迎える。百貨店やスーパーのように店頭販売が主流の小売業は今のままでは、シニア顧客は離れていくことだろう。
これに対し、イオンやイトーヨーカドーなどの大手スーパーでは、「オムニチャネル戦略」と称して、店舗とネットとの連携に本腰を入れるようになってきた。だが、こうしたサービスはまだ始まったばかりでシニア利用者はごく一部にとどまっている。
一方、今後シニアが使うデバイスの主流はタブレットになりそうだ。スマホは画面が小さくて扱いにくいし、パソコンは設定や接続が面倒だからだ。こうした予想を見越して、多くの通販会社は来る2025年に向けて、着々と準備を進めている。
「超スマートシニア」の出現と消費行動の変化
私は、今後シニアの生活スタイルは二極分化すると考える。一つは「超スマートシニア」とも呼ぶべき高齢者の出現だ。「超スマートシニア」は、パソコンやタブレット、スマホなど複数のデジタル機器を使いこなし、要介護状態にならないための種々の予防策を講じ、健康寿命を延ばすことだろう。
そして、仮に要介護状態になっても、情報機器を探り、自宅や老人ホームなどに居ながらにして、欲しいモノやサービスを受けることだろう。自分一人での移動が不自由なこと以外は健康時と同じ機会が得られる。これが「従来の高齢者」と「超スマートシニア」との大きな違いである。
これに対し、もう一つは、デジタル機器の利用に抵抗を示す「非スマートシニア」。この人たちは、自身が要介護状態になったとき、超スマートシニアに比べて、周囲の人の手を借りなければならず不自由極まりない。何よりも健康な時にあった多くの機会が失われることになる。
ネット利用者が少数派の時代は、「ネットなんか使えなくても何の不便も感じない」と思い込んでいる高齢者が多い。現在でも私の身近にいる70代以上にはそうした傾向が強い。
しかし、2025年には先に述べたように高齢者でもネット利用者はもはや少数派ではない。ネットによる情報機器が使えるのと使えないのとでは、毎日の生活における自由度に大きな差が出ることになる。
これから高齢者の仲間入りをする人は「超スマートシニア」と「非スマートシニア」とのどちらを選ぶだろうか?答えは明らかだろう。不動産業界も、こうした点に今から留意しておく必要がある。
参考文献:成功するシニアビジネスの教科書