スマートシニア・ビジネスレビュー 2009年6月15日 Vol.131
「脳の健康教室」とは、「学習療法」(後述)の原理を応用して
健康な人を対象に認知症予防・健康維持を目指すものだ。
参加した教室は、東急大井町線戸越公園駅から徒歩五分の
品川区シルバー人材センターを活用したものだった。
教室の広さは40坪程度。入口を入ると歓談コーナーがあり、
まずお茶を飲みながら学習者とサポーターとが歓談する。
10分程度の歓談のあと、隣の会議机に移る。
会議机では学習者2人とサポーター1人が相対する。
この教室の場合、会議机が3台ずつ2列、計6台並ぶ。
サポーターが6人なので、一回に最大12人の学習者が
学習する。
学習時間は15分程度。残り時間はそのまま歓談を続ける。
歓談→学習→歓談の流れで30分行うと、
10分の休憩をはさみ、次のグループの番となる。
これを一日3グループ分行う。
実際に参加してよくわかったのは、
読み書き・計算などの学習の時間以上に
「歓談」の時間が多いことだ。
学習療法というと、知らない人には何か小難しい
勉強をする場のイメージを持たれることがあるようだ。
だが、「脳の健康教室」の実態は、
簡単な読み書き・計算による「脳トレ」と、
歓談を楽しむ「おしゃべりサロン」をセットにしたもの
と言ってよいだろう。
アメリカでよく見られる「脳トレは、パソコンで学習者にいろいろな「脳のトレーニング」をやらせるものが多い。
それらは確かに科学者によって科学的な効果を検証されたものなのだが、
残念ながら内容がつまらなく、苦痛に感じるものが多い。
脳が活性化するトレーニングと言われても、
内容がつまらなく、苦痛を伴うのであれば、
自腹を切ってまで続ける人は少ないだろう。
しかも、一人でパソコンを相手にする学習スタイルのため、
仲間と歓談を楽しむ「おしゃべりサロン」の機能はない。
これに対して、脳の健康教室では学習者の皆さんが、
サポーターと一緒に楽しそうに学習し、おしゃべりを楽しみ、
教室全体が常に賑やかで、盛り上がっている。
少し前に脳梗塞を起こしたという男性は
「この教室に来るようになって、手の震えが少なくなり、
忘れ物が少なくなりました」と言っていた。
また、一回り年下の男性と学習していた89歳の女性は、
「47歳の時に夫が亡くなって以来、一人暮らしをしています
が、この教室がよい刺激になっています」と話してくれた。
帰り際に、黒地にバラの花の刺繍をあしらった服に
金色のネックレスをつけていた女性と挨拶を交わした。
先日長野の善光寺の入口でバラを美しく玄関に飾っていた
老舗旅館のことを思い出した私は、
「善光寺の素敵なバラを思い出しました」と
その女性に声をかけたところ、
「(バラは)情熱よ!」と冗談ぽく笑顔で応えてくれた。
後でサポーターの方に聞いて驚いた。
このお洒落な女性は76歳。
1年前まで軽度認知障害で会話も不自由だったとのことだ。
賑わいのある場で、人と楽しく学習し、交流することが、
認知症予防に何よりの効果がある。
そのことを改めて実感した見学だった。
参考情報
学習療法とは、音読と計算を中心とした教材を使って、
学習者と支援者がコミュニケーションをとりながら行う学習で
脳機能を改善する方法で、東北大学加齢医学研究所と
くもん学習療法センターが共同開発した
認知症予防・改善策です。
「学習療法」「脳の健康教室」を合わせて
既に全国1,200箇所で15,000名以上の方が取り組んでいます。