スマートシニア・ビジネスレビュー 2009年5月25日 Vol.130
長野県は、①元気な高齢者が多いこと、②自然に恵まれ、新鮮で美味しい食材が多いこと、③首都圏という大市場に近いこと、などからシニアビジネスの可能性が大きい地域である。
小川村にある「小川の庄」のように、高齢のおばあちゃんたちが
地元の食べ物「おやき」を生産し、年間8億円も売上げている例
もすでに存在する。
私は講演の最後に上記のような話も踏まえ
長野県における今後の可能性について言及した。
講演の翌朝、ホテルの朝食会場に行って
妙なことに気がついた。
朝食を食べに来る人の大半が高齢者なのだ。
それもかなり多い。
長野県には元気な高齢者が多い、
と自分は確かに前日に話をした。
だが、それにしても朝食会場の9割近くを高齢者が
占めるほど多くはないだろう。
そもそも宿泊客は地元の人ではないはず。
だとすれば、この大勢の高齢者は一体何なのか。
この朝食会場の「謎」は、外に出かけることで解決した。
実は長野には大きなシニアビジネスが存在していたのだ。
それは巨大な「シニアビジネス生態系」と呼んでもよい。
長野・善光寺では数え年で7年に一度、御開帳というイベントがある。
実は今年がその年にあたっており、
4月5日から5月31日までが御開帳の期間となっている。
ホテルの朝食会場で出くわした高齢者は、これを目当てに県外からやってきた人たちだったのだ。
御開帳とは、絶対秘仏である御本尊の身代わりとして
まったく同じ姿の「前立本尊」を本堂にお遷しして
参拝してもらう盛儀のことをいう。
2003年に行われた前回の御開帳では
何と628万人が参詣したという。
長野市の人口が38万人なので、2ヶ月弱の間に
人口の16.5倍もの人がこのお寺にやってきた。
その大半が高齢者なのだ。
私が訪れた日も、ざっと見て8割以上が高齢者だった。
寺や神社への参拝者の受け皿をつくって栄えたのが
いわゆる門前町である。
門前町は日本全国に数多くあり、私も子供のころから
当たり前のようにその存在を感じていた。
だが、今回、大勢の高齢者がひっきりなしに訪れる
善光寺周辺を見て、門前町というものが実は
「シニアビジネス生態系」になっていることに改めて気がついた。
そこでは家内安全などのお札、数珠、お守りなどの
参拝グッズだけでなく、土産品店、飲食店、宿泊施設、
交通機関、ガイド役など善光寺を訪れる高齢者が求める
さまざまな商品・サービスが、善光寺を中心に
全体的・立体的に展開されているからだ。
一方、他地域の門前町と違うと思ったのは、
寺周辺の「店の種類」である。
それは場所が長野・善光寺にもかかわらず、
長野市以外の長野県産の商品が数多く見られたことだ。
たとえば、先に挙げた小川村の小川の庄の「縄文おやき」の店、
伊那市にある伊那食品工業の「かんてんぱぱ」の店、
飯綱町にあるサンクゼールの「ジャムとワイン」の店など、
善光寺と直接関係はないと思われる店が多く散見された。
だが、これらの店が立ち並んでいても
町には少しも違和感がなかった。
長野“市”産ではないが長野“県”産という
「ゆるやかな関係性」で結ばれているため、
県外者からみれば一体感は損なわれていないのだ。
便乗商法といえないこともないが、
こうした「やわらかな強かさ」は、
雪深い厳しい冬を盆地で過ごさなければならない
長野県人の忍耐強さからにじみ出た知恵なのだろう。
人は一般に神社や寺を参拝すると財布のひもが緩む。
その理由は、せっかくここまで来たのだから
記念に何か買っていこうという観光消費的な動機だ。
これに加えて、何かに祈ることで精神的に楽になり、
購買意欲をかき立てられる効果もある。
全国に数多くある門前町でも、
善光寺のように高齢者パワーを集約することで、
新たな町おこしのきっかけができるのではないか。
そんな可能性も感じた今回の長野訪問だった。
参考情報
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