スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年9月28日 Vol.164
アメリカの組織名称から「高齢者」をイメージする名称が消えている。
エルダーホステルという高齢者に有名なNPOがある。
55歳以上の人を対象に旅を通じて学ぶ機会を提供するというコンセプトで高齢者の新しい旅のスタイルを提案してきた。設立は1975年、今から36年前だ。
今も会社名はElderhostel, Inc.のままだが、
数年前にブランド名をRoad Scholar(道行く学者)に変更した。
顧客の世代が変わり、Elder(高齢者)という言葉が
商品に合わなくなってきたのだ。
50歳以上の会員3700万人を有し、
世界最大の高齢者NPOと呼ばれたAARP。
以前の名称はAmerican Association of Retired Persons。
日本語では全米退職者協会と呼ばれていた。
しかし、数年前に正式名称を
AARP(エイ・エイ・アール・ピー)に変更した。
組織名称からRetired(退職者)という言葉を
取り除きたかったのが変更理由と言われている。
アメリカではRetiredは、社会とのつながりを失い、
存在意義を否定されるとのニュアンスもあるからだ。
もちろん、elderやseniorの名称をつけた組織名称は
今でもまだ数多く残っている。
しかし、その多くがSenior Centerという行政サービスの名称か、
訪問看護サービスの名称になのが実態だ。
このように高齢者をイメージする名称を
避ける傾向が強まっている背景には、いくつかの理由がある。
第一に、年齢差別主義(エイジズム)に対する根強い反感があること。
アメリカには原則一定の年齢に達したら退職する「定年」はない。
昔はあったのだが、AARPなどの活動もあり、
年齢差別だということで撤廃されたのである。
とはいえ、実際には日本同様60~65歳で退職する人は多い。
あくまで強制的な定年ではなく、個人の判断に委ねる形式を取っている。
アメリカという国は、さまざまな民族からなる移民の国なので、
人種や性別、年齢等での差別をなるべく撤廃するのが基本原則なのだ。
第二に、昔に比べて高齢者意識の薄い人が増えてきたこと。
AARPが設立された1958年時点では、
50歳以上の人は十分に「高齢者」だった。
エルダーホステルが設立された1975年時点でも、
55歳以上の人を「elder」と呼んでも許容された。
しかし、現在では、50歳代はおろか、60歳代の人でも
高齢者と言われてもピンと来ないという人の割合は増えている。
第三に、サービス提供者が特定の年齢層をターゲットにせず、
幅広い年齢層を取り込もうとする傾向があること。
このために、あえて高齢者をターゲットにしていることを
謳わないようにする傾向が見られる。
特に08年のリーマンショック以降、この傾向が強まっている。
従来アメリカの年配者は、金融資産を株式や投資信託で
保有する傾向が強かった。
このため、リーマンショックによる株価の下落と
その後の景気低迷で保有資産が大幅に目減りし、
生活スタイルの変更を余儀なくされた人も多い。
これらの動きを眺めていると、アメリカでは
「高齢者」をイメージする名称の使用頻度は、
今後ますます少なくなっていくと予想される。
日本でも以前「後期高齢者」という名称を
健康保険制度に取り入れた時、
多くの反発があったのは記憶に新しい。
本来、多様な人々を「高齢者」と十把一絡げに
扱うやり方が時代に合わなくなっているのだ。
今後は、民間の商品・サービスだけでなく、
行政サービスや制度においても、
年齢という尺度だけでない、きめ細かな取り組みが
必要になってくるだろう。
●参考
多様なミクロ市場の集合体 - マス・マーケットではない団塊・シニア市場