スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年10月6日 Vol.165
米アップル会長のスティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。日経新聞電子版の追悼記事にある次の表現が目に留まった。
「何がほしいか考えるのは消費者の仕事ではない」と
市場調査はあてにしなかった。
自分がほしいかどうか。自らの感性を判断基準とした。
特にこだわったのは製品の美しさだ。
携帯電話の表面に並ぶ数字や文字の操作キーも、
ジョブズ氏の目には醜いブツブツとしか映らなかった。
iPhoneがキーがないタッチパネル操作となったのも審美眼の結果だ。
(出所:日本経済新聞電子版10月6日 コンピューターをポケットに 時代を先導したジョブズ氏)
この記事が目に留まった理由は、全くの偶然なのだが、
拙著「団塊・シニアビジネス7つの発想転換」の第1章のタイトルが
『市場調査はあてにするな - 「デジタル分析」から「アナログ直感」へ』だからだ。
拙著で取り上げたのは、当時まだ登場していないiPhoneではなく、ソニーのウォークマンのエピソードだった。
カセットテープやCDなどのメディアを使用するソニーのウォークマンは、皮肉にもこうしたメディアを使わずに済むiPodやiPhoneにとって代わった。
しかし、ウォークマンとiPod/iPhoneには共通の物語がある。
それは革新的なヒット商品のアイデアというのは、
市場調査からは生まれないということだ。
ソニーがウォークマンを商品化する以前に、
ウォークマンのようなものを商品化したところはなかった。
しかし、一度ウォークマンという商品が具体的に目の前に出現すると、
「こういうのが欲しかった」という人が大勢現れた。
これらが商品化される以前にはiPod/iPhoneはなかった。
そして、一度具体的な商品が市場に現れると爆発的に売れた。
こうした商品のニーズは、
多くの消費者のなかに潜在的には存在していたのが、
商品化される以前に、そのニーズが
消費者の側から具体的に顕在化することはなかった。
なぜなら、多くの場合、消費者自身がそうしたニーズの存在に気がついていなかったからだ。
だから、表層的な意識レベルの情報しか把握できない
ネットアンケートやグループインタビューをいくら綿密に行なっても、
革新的なヒット商品のアイデアは生まれてこないのである。
1996年に瀕死の状態だったアップルに戻ったジョブズ氏は、
社内の経営会議でこう語った。
「ネット時代を迎え、個人が情報を簡単にやり取りできる、
気持ちをわくわくさせる商品を提供しよう」
ジョブズ氏のこの言葉は、何もIT機器やサービスに限らない。
団塊世代・シニア世代に対する商品・サービスでも同じだろう。
単に安いとか、品質がよいというだけではない、
「気持ちがわくわくする」商品こそが、
閉塞感あふれる超高齢社会に必要なのだ。
多くの示唆を与えてくれた
ジョブズ氏のご冥福を心よりお祈りしたい。
●参考