2012年10月10日号シルバー産業新聞連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第67回
前号では、シニアのコト消費(時間消費)から、モノ消費に結びつけるためのビジネスモデルの勘所についてお話した。今号は「コト消費型のモノ消費ショップ」の条件を整理したい。
「コト消費型のモノ消費ショップ」とは、モノ消費の店に回遊型時間消費の要素が入ったもの。つまり、単にショップに行って必要なモノを買うだけではなく、その場で回遊して見ていると買う気をそそられて思わずモノを買ってしまうショップのことだ。
タイガー・コペンハーゲンは、デンマークの小売業に革命を起こし、全世界17か国で展開している生活用品の小売店だ。今年7月に日本1号店が大阪の心斎橋アメリカ村に開店した。「居心地のよい店舗で驚くほど低価格で、スタイリッシュな商品を届ける」がコンセプトになっている。
低価格で顧客を驚かせるバラエティショップ
商品の価格に198円というのはなく、100円、200円、400円、500円という、切りのいい価格設定となっている。安くても楽しい、低価格でできることで顧客を驚かせることに重点を置いたバラエティストアだと謳っている。
とはいえ、強みは優れたサービスと、見て回りたくなるような店舗設計で、安いことが売りではないとも言っている。
店を眺めると、印象的なのはやはりディスプレイの色使いだ。ロウソク、ノート、小物入れ、デコレーションテープと箱、毛糸、サングラス……、各々の商品は低価格の日用品なのだが、商品の並べ方や見せ方でこうもオシャレに見せられるのか、という感じだ。
フランフランの廉価版のような感じという意見もあるが、それよりは色使いが派手で鮮やかだ。こういった色使いは、ヨーロッパのスタイルだ。特にデンマーク、スウェーデン、フィンランドといった国は、北に位置し、冬は日が短く暗くて寒いので、逆にこういった明るい色を好むのだと思う。
店のターゲット顧客は若年層のようだが、来店客の年齢層は幅広く、シニア客も結構多い。シニア層に受けるのは、こうした派手な色使いに触れると、気持ちが明るくなり、気分が若返る気がするのだろう。
1号店の責任者が「昔、大阪に留学していたことがあったので、1号店を大阪にしました」とテレビのインタビューで話したため、一気に大阪人の心をつかんでしまった。名前もタイガーなので、余計大阪人は愛着を感じるだろう。
失礼ながら、一般に大阪人は東京コンプレックスが強いので、東京よりも大阪が先というのが大好きだ。また、いかにも派手好きな大阪人好みの色使いになっているところも受けている理由と言えよう。
タイガー・コペンハーゲンでは、回遊して時間消費すると、「これが100円なの?」「こんなのがあったの?」といった感動を呼び、その感動で商品を買ってしまう。売り場そのものが時間消費の場所になっている点で小売業にとっては理想的なモデルだ。
実は一つひとつのモノを注意深くよく見ると、品質が落ちるものもある。だが、全般的にはオシャレで得な買い物をした気にさせる。こう感じるのは、店舗の内装に安っぽさを感じさせないためだ。
共通点はディスプレイが斬新で、明るい色使い
このように回遊型時間消費の要素を入れたショップの共通点は、ディスプレイが斬新で、明るい色使いをしていることだ。そして、ライブ感やわくわく感のある店舗の雰囲気づくりをしている。スウェーデン発の家具の小売店IKEAは特にそうだが、生活シーンに合わせた家具の使い方の提案をしている。
学ぶべき点の多いタイガー・コペンハーゲンだが、一点だけ苦言を呈する。日本での一号店を開店してから、欠品が多く、すでに二回も臨時休業をしているのは問題だ。ようやく9月22日から再度開店するようだ。日本での開店に際してロジスティックスが想定外だったようだ。フェイスブックでの書き込みを眺めると今のところ顧客からは好意的な声が多いが、これ以上休業を続けて顧客にそっぽを向かれないことを祈りたい。
*シルバー産業新聞社のご好意により全文を掲載しています。