11月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第56回
第一興商は11月から東京都杉並区に会員制シニア向け新施設の1号店を開く。カラオケルームに加え、運動や歌の講座向けのスタジオや、健康食を提供するカフェ、健康チェックできるラウンジを設けるとのこと。
一方、複合カフェ運営のランシステムは初の高齢者向け店舗「健遊空間 太田の森」を群馬県太田市に開いた。マンガやパソコンに加え囲碁・将棋の部屋やマッサージチェア、交流ラウンジなどを備えた。利用料金は15分100円。
既存店の「自遊空間」は20~40代の利用が85%を占めるが、09年秋から60歳以上に割引制度を設けたところ、高齢者の利用が3倍に増えたとのことだ。
退職者が好む第三の場所とその必要条件
私は、かねてより拙著「シニアビジネス(ダイヤモンド社)」をはじめ、多くの著作や講演等を通じて、社会の高齢化に伴い退職者にとっての「第三の場所」が求められるようになり、それがビジネスチャンスとなることを繰り返し述べてきた。第三の場所とは、家庭(第一の場所)でもなく、職場(第二の場所)でもない「どこか(第三の場所)」である。「退職者が好む」第三の場所は、次が必要条件となる。
① 何度も利用しやすいコア・サービスがある
② 新たな友人をつくるきっかけが多い
③ 生活に役立つ情報が多く得られる
④ 健康維持、教養・スキル向上のための機会が多い
その後、私が事例として取り上げた米国シカゴの「マザー・カフェ・プラス」を参考に、多くの企業が全国中で「シニア向けカフェ」を立ち上げた。ところが、それらの大半がビジネスとして成立せず、数年で閉店しているのが現状だ。
この理由は第一に、店舗効率が通常のコーヒーショップに比べて低いこと。「マザー・カフェ・プラス」を事例として挙げたせいか、退職者にとっての第三の場所=カフェという固定イメージを持たれたようだ。
しかし、カフェモデルでビジネスを成立させるには、店舗効率を上げなければならない。つまり、顧客回転数を上げるか、客単価を上げる必要がある。
ところが、多くのシニア向けカフェでは、客の平均滞在時間が長く、単価も安い。だからカフェだけではシニアを対象としたビジネスは難しいのである。実は「マザー・カフェ・プラス」の場合は、カフェでの収支はトントンだが、カフェ以外のサービスで収益を確保するモデルとなっている。
ビジネスが成立しない第二の理由は、カフェという単一の商品が売れるかどうかだけで勝負する「単独孤立型」のビジネスモデルになっていることにある。
この「単独孤立型」と対極のモデルとして、私は「連結連鎖型」のビジネスモデルを提唱している。「連結連鎖型」の特徴は、一つの消費行動が次の消費行動の意欲を喚起するような商品・サービスの体系になっていることにある。
たとえば、平日でもシニアがよく行く「スーパー銭湯」という業態は、まさにこのモデルだ。 スーパー銭湯では、六〇〇円程度の入浴料で天然温泉をはじめ一〇種類程度の風呂が楽しめることが集客の求心力となっている。 ところが、入浴料だけではそれ程利益は上がらない。 そこでいろいろな工夫が施されている。
入浴すれば汗をかき、ノドが渇く。このため風呂から上がればビールやジュースが飲みたくなり、飲めば何かを食べたくなる。そして、食べ終わればマッサージや休憩もしたくなり、数千円のマッサージを受け、有料の休憩室でひと休みする。
休憩後は理髪店に行き、アカスリをやる人もいる。さらに、また風呂に戻ってこのプロセスを繰り返す。 この結果、一人当たりの客単価は、平均で入浴料の四、五倍になる。
カラオケは「新陳代謝型ビジネス」の典型
このビジネスの特徴は、体の新陳代謝を促すことが消費につながる「新陳代謝型ビジネス」であることだ。実はカラオケは「新陳代謝型ビジネス」の典型なのである。これがカフェモデルとの違いだ。
このようにビジネスモデルが「連結連鎖型」かつ「新陳代謝型」だと、そこに集まった顧客は滞在とともに自然にお金を使うようになり、かつ、客単価が高くなるのだ。