シルバー、シニア、サードエイジをめぐる話

スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年4月12日 Vol. 48

中高年を対象とする市場を語る時に、どういう言葉が相応しいのかわからない、という質問を時々受ける。

80年代から90年代まではシルバービジネス、シルバー市場、などシルバーという言葉が多かった。だが、このシルバーには、かつてのシルバーシートやシルバーコロンビア計画のように、年長者を社会的弱者とみなす意味合いが強かった。

ちなみに、この言葉は和製英語であり、アメリカやヨーロッパでは、中高年市場の言葉としては使われない。(*注:フランスでは2015年頃からLa Silver Economie(シルバーエコノミー)の推進を国家政策としてからシルバーを使うようになっている)

一方、1999年から2000年頃から、シニア(senior)という言葉が多く使われるようになってきた。このseniorという英語には、いくつかの意味がある。

一番目は、「高いランクや地位をもつ」という意味。会社においてシニア・バイスプレジデントというとプレジデントが社長の場合は「副社長」、部門長の場合は「副部門長」の意味となる。

二番目は、「年長の」という意味。実はこの意味においてseniorには、特定の年齢を指す意味はない。

シニアの定義を50歳以上などと定義することがあるが、これはあくまで便宜的な定義である。当のアメリカにおいてすら、このあたりはあいまいで、たとえば、シニアネットの会員条件は50歳以上である一方、ファミリーレストランのシニア割引は60歳以上だったりする。

また、この意味の延長で、頭を大文字でSeniorとつけると、家族で同じ名前を持つ場合の年長者のことを指す。たとえば、現在のアメリカ大統領ジョージ・ブッシュの父で、湾岸戦争を指揮した大統領のことをジョージ・ブッシュ・シニアと呼ぶ。

三番目は、高校や大学における「最年長学年」の意味。また、高校のことをシニア・ハイスクールと呼び、中学校のことをジュニア・ハイスクールと呼ぶ。この意味では二番目での使い方に似ている。

このようにseniorは、本来、高い地位や年長という意味だけで特定の年齢層は意味しない。

ところが、senior citizen というと、アメリカではおおむね65歳前後以上の年齢層を指す。この場合、日本語で言う「高齢者」の意味に極めて近い。しかも、senior citizenを略して、seniorということもよくある。

これが、日本人のみならずアメリカ人の中でもseniorという言葉がわかりにくくなっている理由である。

恐らく、フランクリン・ルーズベルト大統領がアメリカで初めて社会保障法を成立させるために、標準的な引退年齢を65歳に定めた時、senior citizenという言葉を使ったのではないかと推察される。日本における高齢者の定義が65歳となっているのは、アメリカに倣ったものと思われる。

このような事情から、現在、アメリカではseniorという言葉は、「社会的弱者の高齢者」というニュアンスが強く、積極的な意味で使用される頻度は減っている。

有名なAARPでは、seniorという言葉を極力使わず、fifty plus(50歳以上の人)、 over fifty(50歳を超えた人)、older adults(年長者)、 older American(年長のアメリカ人)、などの言い方をするようにしている。

だが、当のover fiftyと呼ばれる人たちの多くが、高齢者団体のイメージの強いAARPを毛嫌いして入会しないケースが増えている。

一方、シニアに代わる言葉としてサードエイジ(third age)を使う人もアメリカにいる。だが、この言葉を使う人たちの間ですら、言葉の定義がはっきりしていない。対象とする年齢層も45歳から65歳までという人もいれば、40歳以上はすべてサードエイジだという人もいる。

このサードエイジという言葉は、フランス語のTroisieme Age (3番目の年代)から来ている。成人までをファーストエイジ、成人後をセカンドエイジと呼び、その後の発展段階をサードエイジと呼ぶのがもともとの定義のようである。

だが、アメリカでこの言葉を使っている人は、シニアという言葉のネガティブイメージを嫌い、その代替語として使っているのが実態だ。そして、アメリカにおいても、この言葉が市民権を得ているとは言い難い。

フランスを中心に、ほぼヨーロッパ全域でシニア向けマーケティング・広告代理店を展開しているシニア・エージェンシーという会社がある。先日、この社長のジャンポール・トレギュー氏といろいろ話した時に次の質問をしてみた。

「アメリカではシニアという言葉は、高齢者のイメージが強いようですが、なぜ、あなたは会社名を『サードエイジ・エージェンシー』にしなかったのですか」

彼はきっぱりと、次のように答えた。

「ヨーロッパでは、『サードエイジ』なんて言葉は、古臭くって陳腐で、誰も使わないのです。むしろ、シニアの方がヨーロッパでは目新しさがあるのです」

これを聞いた多くのアメリカ人の専門家たちは、「シニアという言葉を逆輸入したらいいかも」と笑っていた。

これらから、はっきり言えることは、シニアでもシルバーでもサードエイジでも、このような言葉を使う人たちは、皆自分の都合で使っているに過ぎないことである。

だから、これらの言葉を使っている人が、どのような意図で使っているのかに目を向けたほうがよい。

大切なのは、これらの言葉そのものではなく、その言葉を使っている人たちが、どこまで深く考え、行動しているのかである。