スマートシニア・ビジネスレビュー 2005年3月24日 Vol. 66
先週までアメリカで毎年開催される
ASA/NCOA ジョイントコンファレンスに出席してきました。
エイジング分野の関係者延べ4千人が参加する
このコンファレンスの圧巻は、初日にAARPが開催したゼネラルセッションでした。
朝8時からの開始にもかかわらず、
700人以上収容の大ホールは満席。
参加者の多くは、AARPの会員の50歳以上の人たちで、
2時間のセッションは、終始熱気に溢れていました。
AARP作成による
「Our Future. Our Fight.(我々の将来。我々の戦い)」
という冊子が配布された会場は、
まるで決起集会のような雰囲気でした。
この雰囲気の最大の理由は、
今年のテーマがソーシャル・セキュリティ、
つまり公的年金制度だったからです。
ブッシュ大統領は、現行の公的年金制度が
「破たんに直面している」と危機感をあらわにし、
約70年ぶりとなる制度の抜本改革に
強い決意を示しています。
一般教書演説の際、公的年金の一部に確定拠出方式の
個人勘定を導入するなどを柱とした改革案を説明し、
特に現在55歳以上の人は現行制度通りとする方針や、
個人勘定の年間積立額は年収の4%を上限とするなどの
詳細を初めて明らかにしました。
一方、AARPは、ブッシュ政権によるこうした改革案に対して
反対の姿勢を示しています。
正確に言うと、個人勘定による年金上乗せの
仕組み創設には賛成していますが、
既存の年金を個人勘定に置き換えることに
強く反対をしています。
今回のセッション開催の背景には、
こうしたAARPの強い姿勢があったのです。
セッションでは、2つのパネルディスカッションをはさんで、
全米中の市民の声を伝えるビデオが流されたのですが、
概ね次のような内容でした。
「いま、どこで、何が議論されているのかがわからない」
「そもそも何が論点なのかがはっきりしない」
「負担が増えるのに、年金支給額が減るのはおかしい」
「若い世代にしわ寄せがいくのはおかしい」
なんだ、皆どこかで聞いたような話ではないか。
そう感じたのは、私が日本人だからかもしれません。
なぜなら、こうした議論は、昨年、日本で
年金改革法成立前にさんざん議論されたことと、
かなり共通点があるからです。
昨年の11月、ロンドンでのAARP主催の会議に
参加した際に最も質問されたのが、
日本の年金改革に伴う国民の反応と
政府の対応だったことを、
このセッションに参加して改めて思い出しました。
今週から始まる愛知万博に対する海外メディアの注目は、
日本のロボット技術に集中しています。
こうした技術は、以前に比べて薄くなった
日本の存在感を高めるうえで極めて重要なものです。
しかし、これと同等以上に今後重要なのは、
高齢化の進展に伴うさまざまな「体験」を、
明確に他の国に語っていくことだと思います。
なぜなら、世界最速の高齢国家日本で起きることは、
これから高齢化が進む他の国の
「近未来」の先取りになるからです。
これについては、これまで機会ある度に語ってきましたが、
いま、アメリカで議論されている年金改革は、
まさにその典型例なのです。
高齢化に伴う諸問題は複雑で、
簡単に解決できるものはほとんどありません。
しかし、そうした困難に立ち向かい、
解決策を見出そうとするところに
新たな智恵が生まれます。
この智恵こそが、
これから高齢化する各国が必要とするものであり、
日本が世界から尊敬される国になるために、
後世に残すべき知的財産なのではないでしょうか。
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