不動産経済 連載 団塊・シニアビジネスの勘所 第四回
「モノ消費」とは、消費財などの「商品の消費」である。それに対して、「コト消費」とは、モノ以外の目的による「時間の消費」だ。消費者にとっては、消費する時間が自分にとって何らかの価値があるかどうかが重要である。
ところが、商品・サービス提供者にとって重要なのは、消費者の時間消費機会をモノ消費機会につなげることだ。これができないと「コト消費」機会が単なるコスト要因になり、事業が長続きしない。シニア向けの「コト消費」ビジネスにはこのパターンが非常に多いので注意が必要だ。
時間消費には「定住型」と「回遊型」がある
「コト消費」は「時間消費」とも呼ぶ。時間消費には「定住型」と「回遊型」の二つのタイプがある。アメリカ・シカゴにある「マザー・カフェ・プラス」は、二〇〇三年に私が日本で初めて紹介したものだが、定住型時間消費の典型だ。
ビジネスのコンセプトは、退職者向けの「第三の場所」で、アメリカ版の老人クラブであるシニアセンターに代わる高齢者意識の薄いシニアの新たな居場所という価値を提唱して受けている。
退職者向けの「第三の場所」の必要条件の一つは、何度も利用しやすいコア・サービスがあること。マザー・カフェ・プラスの場合は、飲食できるカフェがそれだ。
平場のラウンジは失敗事例の典型
これまで多くの日本企業が、マザー・カフェ・プラスを真似して「○○カフェ」や「XXサロン」を立ち上げてきたが、ことごとく失敗している。その理由の一つは、カフェを平場のラウンジにしてしまうことにある。平場のラウンジがダメなのは、広いスペースを使う割に、収益源が少ないからだ。
そもそも平場のラウンジは人が集いにくい。こうしたラウンジでよく見られるのは、会員のおばさんが四、五人集まって編み物しながらしゃべっている光景だ。利用者にとっては、ただ同然の費用で、家とは別のところで、似た者同士で交流できるので有益で楽しい。
ところが、カフェ運営側にはほとんどお金が落ちない。その一方で家賃と光熱費がかかるうえ、スタッフも必要なので人件費もかかる。
このように、シニアの時間消費の場=カフェ・ラウンジというステレオタイプにこだわると失敗する。私はこれまでこうした失敗事例を数多く見てきている。
時間消費が購買意欲を促す仕掛けが必要
したがって、カフェ事業で利益を出すには、「時間消費」という行為が商品・サービスの購買意欲を促す仕掛けが必要なのだ。そもそも、時間消費の場はカフェである必要はない。
さらに言えば、マザー・カフェ・プラスの運営会社Mather Life Waysのメイン事業は、実は老人ホーム、デイケアセンター、訪問介護なのである。つまり、マザー・カフェ・プラスは、その見込み客の集客機能も担っている。だから、そもそもカフェ事業で大きな収益を上げる必要はないのだ。
こうした実態を知らず、たとえカフェ事業で利益が出なくても経営が継続できる体制をもたずに甘い収支計画で事業を始めてしまうと、事業立ち上げ後にすぐに行き詰まってしまう。
時間消費が、モノ消費に結びつきやすい「回遊型」
時間消費がモノ消費に結びつきやすいのは、「定住型」よりも「回遊型」だ。これは複数か所を回遊して何かを行なうことで時間消費するタイプである。この回遊型には「クローズ型」と「オープン型」がある。
クローズ型はいったん店の中に入ると、外に出づらい構造のものだ。たとえば、スーパー銭湯、東京ディズニーランド、ハウステンボス、国立新美術館など。大きな美術館は、みなこのタイプだ。
さて、スーパー銭湯で皆さんどうするかというと、まず風呂に入る。風呂に入れば喉が渇くので、ビールなどアルコール飲料を飲む。するとつまみを食べたくなり、食べるとますます飲みたくなる。腹が膨れると、休憩室で休憩したり、マッサージをしてもらったり、施設内の理髪店に行ったりする。それが終わるとまた入浴する人もいる。時間に余裕のある人は、このサイクルを1日に2回くらい繰り返す人もいる。
時間消費ビジネスの勘所は、連結連鎖と新陳代謝
私は、このようなビジネスモデルを「連結連鎖型」と呼んでいる。1つの消費をすると、それが次の消費を促す。これらを連結することで連鎖的に消費が発生し、時間消費がモノ消費に直結するのだ。もちろん、水回り設備が多いのでそれなりの設備投資とメンテナンスが必要だが、稼働率がある程度上がれば、スーパー銭湯というのは実に効率のよい時間消費ビジネスだ。
もう1つ重要な点は、こうした連結連鎖が起きやすい理由に、時間消費のプロセスのなかに身体の新陳代謝が起きやすいプロセスが存在することだ。汗をかいて、エネルギーを消費すると、水や食料を補給したくなる。何のわざとらしさも嫌味もなく、お金が落ちるモデルなのだ。
このように時間消費ビジネスの勘所は、連結連鎖と新陳代謝にある。
参考:シニアシフトの衝撃