スマートシニア・ビジネスレビュー 2012116Vol.183

P1020307-21021日からアメリカ・コロラド州デンバーで開催されたLeadingAge Annual Meeting & Expositionで、認知症の非薬物療法である学習療法の日本での経験とアメリカでのトライアル結果の発表を行いました。

 

LeadingAgeは、以前の名称がAAHSAThe American Association of Homes and Services for the Aging)であり、全米の高齢者向け住宅、高齢者向けサービスを提供する事業者の団体です。このため、今回の講演の対象者は、実際に高齢者住宅や施設を運営している経営者、実務スタッフが対象でした。

 

このイベントは、高齢者施設関係者にとって年に一度の大イベントであり、全米から関係者が集まります。このため、私たちはここでの発表機会を重要視していました。

 

にもかかわらず、私たちの発表日時がイベント最終日の、しかも朝8:30からと知らされました。これを知った時、正直がっかりしました。なぜなら、通常こうしたイベントでは最も聴衆が多いのが初日であり、日が経つにつれて聴衆は少なくなっていくからです。

 

しかし、ふたを開けてみると、会場には150名近い聴衆が集まり、ほぼ満席状態。私たちの発表に対する関心が相当高いことを確認できました。

 

今回の講演は、アメリカ・オハイオ州クリーブランドですでに学習療法を導入しているEliza Jennings Senior Care Networks社のCEODeb Hillerさん、人材開発部長のMichelle Antonczakさんのお二人との共演でした。

 

P1020310-2まず、私が学習療法の理論的背景と日本での経験についてお話しし、次にAntonczakさんがアメリカで実施したトライアルの結果を報告しました。Hillerさんは、全体のモデレーションと学習療法導入のベネフィットについて報告しました。

 

参加者のほとんどが高齢者施設やシニア住宅を実際に運営している方々だったせいか、会場の雰囲気は興味津々。このため、こちらの一言一言に対して、「うん、うん」「そう、そう」と大きく頷いたり、笑顔が出たり、という反応の良さを感じました。また、熱心にメモを取っている多くの人の姿を目にしました。このように自分の話すテーマに対して問題意識の高い方が聴衆に多いと、話す側は非常に話しやすくなります。

 

そして、驚いたのは質疑の時間です。Hillerさんが「今から質問をお受けします」と話した途端、会場にいるほとんどの人が質問のために一斉に手を挙げたのです。こんな風景は、日本での講演では、まずお目にかかることはありません。私が知る限り、アメリカでもこれほど多くの人が一斉に挙手をする講演会というのは例が少ないと思います。

 

特に今回の発表での反応が通常と異なっていたのは、終了時刻を過ぎても質問が途切れることがなく、かつ、介護現場でご苦労されている方々ならではの深い質問が続いたことです。

 

聴衆からのこうした大きな反響を実際に目の当たりにし、私は学習療法に対するアメリカの潜在ニーズの高さを改めて肌で感じました。

 

そして、最も感心したのは、アメリカで最初にトライアルを始めたEliza Jennings社の学習療法に対する理解度の深さです。

 

彼らと最初に出会い、私が学習療法のプレゼンをしたのが106月。その後、経営トップ二人が初めて来日し、公文教育研究会や東北大学、学習療法を実践している複数の高齢者施設を訪れたのが109月。そして、くもん学習療法センターのメンバーが最初の研修のためにクリーブランドを訪れた1011月。それから、わずか2年弱の期間でしかありません。

 

会場で多くの質問に受け答えするEliza Jennings社の二人の姿を眺めて、私はこのわずか2年弱の短期間に、学習療法の思想からきめ細かい作法まで、彼らが身体化している事実を改めて確認できました。

 

私が今回何よりも感銘を受けたのは、アメリカの高齢者施設運営者が、日本生まれのメソッドを、日本の施設運営者以上に深く理解し、トップクラスの水準に進化していた事実です。

 

これが可能となった理由は大きく二つあります。一つは、Eliza Jennings社が学習療法実施以前から「パーソン・センタード・ケア(人中心の介護)」に取り組んでおり、学習療法に対する親和性が高かったことです。もう一つは、日本で10年以上の経験の蓄積のある学習療法の最新・最善のノウハウを、くもん学習療法センターのメンバーが惜しみなく伝えたことです。

 

何よりも素晴らしかったのは、たとえ日本発のものでも優れたものは徹底的に学ぼう、というEliza Jennings社の謙虚な姿勢。そして、くもん学習療法センターの皆さんの「日本初の対認知症療法で日本だけでなく世界にも貢献しよう」という高い志と情熱。そして相手のためならとことん懇切丁寧に対応する面倒見の良さでした。

 

ここまでのレベルにまで進化したEliza Jennings社の努力に敬意を払うとともに、日本から何度もアメリカに行って、そのエッセンスを伝え続けた、くもん学習療法センターの皆さんの多大な尽力に深い敬意を払いたいと思います。

 

また、発表の最後に今回のアメリカでのトライアルを仙台放送がドキュメンタリーに収めた映像が上映されました。会場の多くのアメリカ人聴衆が涙を流しながら、食い入るように観ていました。認知症を改善したいというニーズは、日本もアメリカもまったく同じであることを再認識した瞬間です。

 

この素晴らしいドキュメンタリーフィルムの製作のために、日本から遠いクリーブランドに何度も足を運び、歴史的瞬間を撮り続けた仙台放送の皆さんのご尽力にも深い敬意を払いたいと思います。

 

参考:スマート・エイジングという生き方
第四章  アメリカから始まった学習療法の国際展開