スマートシニア・ビジネスレビュー 2010年7月12日 Vol.142

fula-girl先週、独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した「高年齢者の雇用・就業の実態に関する調査」によれば、65歳以上まで働きたい」という人が、全体の57.5%、約6割存在するとのことです。

 

内訳は「65-69歳まで働きたい」が16.3%70歳以上まで働きたい」が10.9%「年齢に関係なくいつまでも働きたい」が30.3%で、

65歳以上の高齢者になっても働きたい高年齢者の割合は合わせて57.5%に上りました。(調査対象は全国の55歳から69歳の男女3602人)

 

この6割という数値を大きいと感じるか、小さいと感じるかは人によって異なるでしょう。

注意したいのは、この類の調査は過去何度も行われており、65歳以上まで働きたいという人の割合は、過去10年余りで実はそれほど変わっていないことです。

例えば、1997年に総務庁が発表した

「中高年齢層の高齢化問題に関する意識調査」を見ると、

60歳まで働きたい」が30%、「70歳まで働きたい」が22.1%

75歳まで働きたい」が4.3%、「年齢にこだわらず働きたい」が

33.4%で、65歳以上になっても働きたい割合にすると、

59.8%となり、先の調査結果とほとんど変わりません。

 

ただ、今回の調査で以前と異なる点は、

65歳以上まで働きたいという理由において

「経済上の理由」が72.8%とトップになったことです。

 

03年に日経ビジネスで実施した同様の調査でも、

定年後も働きたいという人の割合は65.2%に達していました。

しかし、「仕事を楽しみたい」「社会とのつながりを持ちたい」

が理由のトップであり、「経済上の理由」はトップでは

ありませんでした。

 

65歳以上まで働きたい」というのは、

「本当は働きたくないが、65歳以上まで働かざるを得ない」と

いうのが実態になったという意味でしょう。

 

この背景は端的に言えば、将来不安の増大です。

少子高齢化の進展と政治家のリーダーシップ欠如による

年金制度の先行き不安がその最たる理由と考えられます。

 

しかし、このような「本当は働きたくないが、65歳以上まで

働かざるを得ない」後ろ向きな高齢者が増えていく社会は

あまり健全とは思えません。

 

人口動態の変化により、少数の若年層が

多数の高年齢層を支える社会構造に向かっているなかで、

少しでも多くの高年齢層が若年層にぶら下がることなく、

経済的にも自立して健康で生活できることが望まれます。

 

ところが、本当は働きたくないのに仕方なく働き続ける

「後ろ向きな」高齢者の割合が増えるのは、

若年層に対する精神面での悪影響が大きくなる気がします。

 

よく「最近の若いモンは・・・」という言い方がなされますが、

若いモンの行動には、よくも悪しくも年長者の行動が

反映されやすいと言えます。

 

例えば、最近の若者は内向き志向が強く、

海外に出たがらないと言われますが、

この内向き志向は彼らの親の年代の内向き志向を

反映しているものと思います。

 

日本経済が世界中で最も存在感が大きかった80年代から

バブル崩壊後の90年代前半まで、世界のあちこちで

日本の存在感は大きなものがありました。

しかし、その後の日本経済の低迷に伴い、

海外に出る日本人の割合も徐々に減ってきました。

 

また、人気就職先でも、リストラされた親のいる業界を避け、

安定経営を続けている(ように見える)業界が選ばれる傾向

があります。

 

このように、若者の行動には、彼らの親世代や年長者の

行動が反映されやすいのです。

 

だから、本当は働きたくないが、いやいや働かざるを得ない

「後ろ向きな高齢者」が増えていくと、その影響を受けた

「後ろ向きな若者」の増加が予想されます。

これは絶対避けなければいけないと思います。

 

なぜなら、こうした「後ろ向きな」層が

社会の価値観の主流になると、

それを覆すのに長い時間がかかるからです

 

こうした状況で思い出すのは、

数年前に大ヒットした映画「フラガール」です。

 

私はこの映画を4回観ましたが、若干クサイと思いつつ、

何度見ても涙が出ました。

 

それは、若者たちがフラダンスのダンサーになって

村を救おうとした時に、当初反対していた年寄りたちが、

若者たちの挑戦しようとする気持ちに徐々に心を打たれ、

最後は何とか成功させてやるべく、

いろいろな面で応援する立場に変わったことでした。

 

どうせ働かざるを得ないなら、嫌々仕方なく働くのではなく、

フラガールの年寄衆のように、

次の世代のために前向きに働く人が

増えて欲しいと思います。

  

 

参考情報

 

映画「フラガール」