高齢者向け保険報酬の削減が始まったアメリカと日本の近未来

スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年12月14日 Vol.170

P1000780-2アメリカから帰国した1210日の夕方、日経新聞一面の「老人ホーム、新設急ぐ 来年までに104ヵ所増」という記事を見て複雑な気持ちとなった。

 

なぜなら、アメリカ滞在中訪れた高齢者施設の担当者から「連邦政府からの保険報酬が既に削減され始めている。これからもっと削減される」

との話を聞いてきたばかりだったからだ。

 

アメリカには、日本の公的介護保険制度のような

長期介護に対する公的保険はない。

民間企業が提供する任意保険のみである。

 

一方、高齢者関連施設のうち、入院リハビリテーション施設、

スキルド・ナーシング施設(日本で言う介護施設に近い)、

ホスピスに対しては、メディケアで保険報酬が支払われる。

 

ここでメディケアとは、65歳以上の人を対象にした

公的医療保険である。

 

ところが、2010年3月にオバマ大統領の署名により

「医療制度改革法(Patient Protection and Affordable Care Act)」

が成立した結果、前掲の保険報酬が削減され始めたのだ。

 

医療制度改革法の狙いは、

2009年時点で5,070万人と試算された

無保険者に民間医療保険への加入を義務付け、

国民皆保険を実現しようとするものである。

 

一方、メディケア財政を担っている二つの信託基金のうち、

主に病院の費用を賄うHI信託基金が

2008年度より単年度赤字に陥り、

2017年に破綻すると試算されていた。

 

これを2029年まで遅らせることも

改革のねらいの一つになっている。

 

つまり、国民皆保険の実現と、

破綻が現実化してきたメディケアの財政基盤の立て直し

(正確には破綻時期の先延ばし)とが、

医療制度改革法の目的である。

 

この目的のために、既存のさまざまな

医療制度の合理化が図られた。

その一部が、前掲の高齢者施設関連のものなのだ。

 

具体的には、入院リハビリテーション施設

に対する保険報酬が2010 年度から削減された。

 

さらに、2012 年度から、ホームヘルスケア、

スキルド・ナーシング施設、ホスピスに対する

保健報酬が削減される。

 

私が先週訪れた高齢者施設では、

これら全てを手掛けているため、昨年から削減が始まり、

来年からさらに削減額が大きくなる見込みだ。

 

こうした保険報酬の削減に対して、

高齢者施設側も手をこまぬいているわけではない。

 

アメリカでは高齢者施設の経営者でも起業家意識は高い。

メディケアとメディケイド(低所得者向け保険制度)の

保険報酬を活用しながらも、

ちゃんと先を読んで準備をしてきている。

 

翻って、日本の高齢者施設の状況はどうだろうか。

もちろん、日本にも起業家意識の高い施設経営者は

少なからず存在する。

 

しかし、実際には

 

「公的介護保険依存のビジネスモデルは本来避けたい。

政府の政策変更に振り回されるからだ。

とはいえ、日本がつぶれない限り、

この制度は、しばらくは大丈夫だろう」

 

と思っている施設経営者が案外多いような気がする。

 

私は、今、アメリカの高齢者施設で起こり始めていることは、

日本の近未来の姿に見えてならない。

 

その理由は、高齢化の進展で、財政破綻の恐れが現実化し、

それを回避するための対策の結果だからだ。

 

現在の日本の介護保険制度は、保険と言いながら、

財源の50%は公金である税金だ。

 

高齢化の進展で保険報酬の支出が増える一方で、

税収・保険料が不足し、国債発行もままならず、

国家財政が危機的状況に陥れば、

あらゆる歳出削減を断行せざるを得ない。

 

介護保険報酬もその例外にはならない現実を

先のアメリカの例は示していると言えよう。

 

そして、介護保険報酬が削減された場合、

それに大きく依存している事業者は、

危機的状況に陥ることになるだろう。

 

だから、高齢者施設の事業者は、

まだ嵐が来ない今のうちに

介護保険報酬に過度に依存しない

ビジネスモデルへの脱皮を図るべきだ。

 

嵐が来てからでは遅いのだ。

 

アメリカ出張で見た現実と日経新聞の記事とが重なって

そんな思いが強くなった。

 

●参考

 

なぜ、私はこの仕事に取り組むのか?



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