スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年9月6日 Vol.162
韓国のベビーブーマー市場を一言でいえば、
こう表現してよいだろう。
先週韓国で開催された退職後のベビーブーマーに関するシンポジウムに
招待講演者として参加した感想である。
言い換えれば、シニアビジネスで先行する日本企業には
多くのチャンスがあると言えよう。
韓国のベビーブーマーとは55年から63年生まれの人を指す。一方、日本のベビーブーマーである団塊世代は47年から49(あるいは50)年生まれ。日本よりも幾分若い年齢層を指していることに注意が必要だ。
韓国のベビーブーマーが55年以降となっているのは、朝鮮戦争の影響だ。
ただし、人数のピークは日本の団塊世代ほど急激ではない。
韓国では多くの企業で55歳が定年である。
現在の日本人の感覚からすれば、随分早い定年だと思われるだろう。
最年長のベビーブーマーが55歳になった2010年から
8年間大量の退職者がうまれるというのでここ数年注目されているのだ。
まるで、かつての「2007年問題」と同じような話だ。
「いかにしてベビーブーマーのレジャー・文化活動を
活性化させるか」だった。
韓国文化観光研究院のキム研究員の報告によれば、
09年の調査で、劇場や文化展示会、スポーツイベントを見たことがあるベビーブーマーは47.8%しかいなかったとのこと。つまり、半数以上がこうした活動への参加体験がないという。
この報告に対して、パネルディスカッションの場で
「韓国のベビーブーマーは、レジャー・文化活動については、
欲求はあるが行動が伴っていない」との意見が多くのパネリストから出た。
ニーズはあるが、消費行動に結びついていないということだ。
これに対して会場から何度も共通に出た意見は、
「ベビーブーマーを対象にしたレジャー・文化のインフラが少ない」
というものだった。
つまり、ニーズはあるのに、
その受け皿が不足している、というのだ。
受け皿についてはハード面の不足を指摘する声が多かった。
「4つのブログを運営し、フェイスブックもやり、ネットを積極的使っている。しかし、一番不足しているのは、ネットで集まった人たちに自分のスキルを伝える物理的な場所がない。レンタルできるような場所もない」
と嘆いていた。
一方、ソフト面での不足の指摘もあった。「韓国のベビーブーマー対応は文化的なアプローチがなされていない。例えば、現状の老人ホームではお遊戯ばかりやっていて、こう言うところに今後ベビーブーマーが行くとは思えない」という意見がパネリストの一人からあった。
こうした意見は日本では10年前頃から目立つようになり、
完全ではないがようやくシニア住宅市場にも反映されてきたものだ。
ベビーブーマーの年齢層が8年ずれている分、
議論の内容も8年程度ずれている感じだ。
分科会を通じて何度も耳にしたのは、こうした商品・サービスの
インフラ整備など供給サイドの問題指摘が多かったことだ。
そして、こうしたインフラ整備は、
国がもっと注力すべきだ、との意見も多かった。
私に対しても、日本の状況を知りたい、
との質問が何度か寄せられた。
実は日本でも政府の高齢者政策は
長い間医療・介護が中心で、
退職者のための文化・レジャー向けインフラを
重点的に整備するような政策はなかったのだ。
日本では、むしろ民間企業がその代わりに、
ビジネスとしてけん引してきたのが実態だ。
逆に言えば、現状の韓国では、こうした民間企業による
商品・サービス開発がまだなのだ。
最近の急激な円高・ウォン安で注目を浴びている韓国は、
シニアビジネスの面でも新たなフロンティアなのである。
このチャンスを活かすも殺すも
日本企業次第だろう。
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