スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年9月20日 Vol.163

長野県の市町村別老年人口割合先週末、長野県経営者協会での講演の際、

配られた資料を見て、思わずハッとした。

 

それは、長野県の市町村別老年人口割合のデータであった。

実はこうしたデータはどの都道府県でも

公開しているありふれたものだ。


しかし、私が思わず食い入るように眺めた理由は、

地図で市町村毎の地理的位置と高齢化率の数値が色分けされていたからだ。

(出所:長野県ホームページ http://www3.pref.nagano.jp/toukei1/jinkou/nenrei/map.htm

 

これを見ると、長野県全体の高齢化率26.5%という数値以上に

高齢化進展の生々しい現実をはるかに実感する。

 

たとえば、高齢化率が50%を超えている、

いわゆる限界集落が2か所もあることがわかる。

また、40%を超えているところが9か所もある。

 

全国平均23.1%という数値だけでも

日本は十分高齢化率世界一なのだが、

それどころではない40%50% という地域が

多数実在する事実に改めて目を覚めさせられた。

 

限界集落とは、住民の50%以上が65歳以上で、

近い将来消滅の恐れがある地域をいう。

日本にはすでにこうした集落が相当数あると言われている。

 

そして、一度限界集落になると

復活する例は少ないと言われている。

 

講演でもお話しさせていただいたが、

こうした高齢化の現実をどう解釈するかで、

その地域の将来の道が決まると思う。

 

為政者が限界集落だからもう打ち手がないと思うのか、

それとも、まだ何か可能性があると思うのか。

その解釈の仕方で今後の行く末が決まるということだ。

 

私が知る限り、新規事業を成功させる人は、

それまでの通説や一般常識にとらわれず、

独自の差別化を実行する人だ。

 

そして、独自の差別化は、

その会社や地域の特徴を強みに変えることで

成し遂げている例が多いのだ。

長野県にもそうした先駆例が存在する。

おやきビジネスで著名な株式会社小川の庄がそれだ。

 

おやき村
(写真提供:株式会社小川の庄)

小川の庄は名前の通り長野市の西、小川村にある。

小川村は、先のデータによれば総人口3037人。

うち65歳以上の老年人口が1286人で高齢化率が42.5%

限界集落ではないが、文句なしの「超高齢社会」である。

私も実際におやき村まで行ってみたが、

山間の傾斜地の多い場所で、現地にたどり着くまでは、

こんな場所に本当におやき村があるのだろうかと不安になった。

お世辞にも耕作に恵まれた土地とは言えない場所だ。

 

だが、必要は発明の母、逆境こそが知恵を生む。

こうした傾斜地で栽培できるのは、穀物では麦や雑穀となる。

この麦や雑穀を皮の原料とし、条件の悪い耕作地でもできやすい

野沢菜や山菜を具にしたのが、実はおやきなのである。

 

また、このあたりには広葉樹が多いため、

おやきを焼くための燃料にそれを使った。

 

おやき
(写真提供:株式会社小川の庄)

おやきは、本来、売り物ではなく各自の家で食べるもので、

家ごとに皮の作り方や

具の種類から焼き方まで異なる家庭食である。

 

このため、おのおの家の製法・ノウハウは、

すべて家の女性、つまりおばあちゃんたちが持っていた。

 

しかし、過疎の村で、おばあちゃんたちもやることがなく、

低収入にもあえいでいた。

 

このおばあちゃんたちが働きやすい職場環境を整備すれば、

雇用機会の創出にもなり、一挙両得である。

 

そう考えた創業者の権田氏は、

「究極の地元資源」であるおばあちゃんたちを

おやきつくりの主役にして事業を組み立てたのである。

 

このように地域にある資源を徹底的に使いこなすことを

考えた末の結論が、おやきビジネスなのである。

 

私達が小川の庄から学ぶこと。それは、

「新事業成功の要諦は、地域の強みを徹底的に活かすこと」

にあることだ。

 

同じことが民間企業に対しても言える。

「新事業成功の要諦は、自社の強みを徹底的に活かすこと」

にあると。

 

そして、どこまで徹底できるかは、

取り組む経営者の腹づもりで決まるだろう。

 

 

●参考情報

 

小川の庄 おやきビジネス

2010年12月1日号 先見経済

 

長野県市町村別老年人口割合の状況(平成22年10月1日現在)