「年の功」の科学的裏付け

スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年8月8日 Vol.159

brain長い間、成人を過ぎると脳は衰えていく一方だと言われてきた。世の中には未だにそう思っている人も多いようだ。

 

だが、最近の脳の研究により、年をとったとしても

脳の働きは必ずしも落ちていくとは限らず、

むしろ発達する可能性があることがわかってきた。

 

脳の大脳皮質の外側を「灰白質」、内側を「白質」と呼ぶ。

灰白質には情報を出す「神経細胞」がぎっしり詰まっている。

これはいわばパソコンのチップのようなものだ。

 

一方、白質には神経細胞から出てきた情報を

伝達するための「神経線維」が詰まっている。

これはいわばチップどうしをつなぐケーブルの束のようなものだ。

 

近年の研究で、この灰白質の体積は20歳頃から一定のペースで

男女ともにほぼ直線的に減少していくことがわかっている。

つまり、神経細胞は年齢とともに減っていくのである。

 

ところが、興味深いことに神経線維の束である白質は、

逆に年齢とともに増加していく。

しかも、男女の区分なく増加していくことがわかっている。

 人間の脳は神経細胞と神経細胞とがつながりあった

「ネットワーク」でつくられている。

このため、情報を出す神経細胞自体も重要だが、

それよりも神経細胞どうしの「つながりあい」、

つまり神経線維の発達の方が脳の働きの面でより重要なのである。

 

神経細胞が死んでも、そこから出ている

「つながりあい」がなくなるわけではない。

 

シナプスを形成し、複雑なネットワークが形成されていれば、

それを構成する一つの細胞が死んでも、

ネットワーク全体としてさほど影響がなく、

維持できると考えられている。

 

これはインターネットのようで面白い。

インターネットではパケット信号を伝達するルーターの一部が故障しても、

自動的に別のルーターを経由して信号が伝達されるからだ。

そもそもインターネットが脳を参考に設計されたと言う方が正しい。

 

こうした構造により、脳の能力が補われ、

たとえ神経細胞が減ったとしても「巧み」に脳を使えるようになる。

 

先日、この分野の研究で第一人者の

東北大学加齢医学研究所 瀧靖之先生から最新の研究動向を伺った。

瀧先生によれば、白質の体積は60歳から65歳頃ピークになり、

その後年齢とともに減少していく、という。

 

私がこの年齢と脳の変化について

拙著「リタイアモラトリアム」で取り上げた時点では、

白質の体積は年齢とともに増加するというデータしかなかった。

だが、その後の研究で、ピークの後、

年齢とともに減少することが明らかになったのだ。

 

ここで注目したいのは、年齢とともに減少するとはいえ、

70歳代でも20歳代・30歳代と

同程度の体積を維持している点だ。

 

つまり、脳の能力でみれば、70歳代でも

20歳代・30歳代と同レベルを

維持できる可能性が大きいということだ。

 

このように「年の功」という言葉には、

科学的な裏づけが存在するのである。

 

これが、人の後半生に発揮される

創造性の源であると考えられている。

 

hokusai日本画の大家である浮世絵師、

葛飾北斎(17601849)がその例だ

 

数ある作品の中でも、「富嶽三六景」と呼ばれる

もっとも有名な46枚から成る作品は

彼が66歳から73歳の間に制作され、

日本の風景画の頂点を極めた作品と評価されている

 

北斎自身も、年齢と共に自らの作品が

よくなっていると感じていたらしい。

 

創造的な表現活動は、文化に貢献することであり、

自らの健康を増進することにもなる

 

だから、年配の皆さんにお伝えしたい。

年だからと言ってあきらめず、

自分の可能性を信じて、

どこまでも歩み続けて欲しい、と。

 

 

参考

リタイアモラトリアム

 

いくつになっても脳は若返る

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