2013510 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第74

image夫が現役か退職かで変わる妻の消費行動

 

団塊世代の定年退職が少しずつ増えている。だが、配偶者の退職で妻の消費行動がどのように変わるのかは意外に知られていない。

 

リビングくらしHOW研究所が50代、60代の女性を対象にした調査によれば、「夫は現役で働いていますか」と女性に聞くと、50代では73.8%がまだ現役。ところが60代になると17.9%しかおらず、55%は無職となっている(図表1)。50代と60代では、夫の状態がかなり違う。

 

この母集団に、たとえば「第二の人生を考える時に、住まいはどこにしたいですか」と尋ねた場合、50代は半分が「いまのままでいい」と答えるが、残りの半分のうち、21.3%が「親のそばに引っ越す」「都心のマンションに引っ越す」「リゾートや田舎に引っ越す」など、いろいろ答えるが、28.7%が「わからない」と答える。

 

つまり、期待と幻想を持っている人と、予想がつかない人とを合わせて半分なのである。50代では、自分の夫がこれからどうなるかが、まだわからない人が多い。また、両親が要介護状態だとさらに不確定要素が増す。

 

ところが60代だと、75.3%が「このままでいい」と答える。なぜなら、多くの場合、夫が退職して行き先が落ち着き、両親も一段落しているために、不確定要素が減るからだ。すると、気持ちが吹っ切れて腰が据わるようになり、自分の残り時間を楽しもうというように気持ちが変わるのだ。

 

夫が退職しても妻の自由時間が増えるとは限らない

 

一方、前掲のリビングくらしHOW研究所の調査によれば「5年前に比べて自分の時間が増えたと感じるか」という設問に対して、すでに夫が退職している妻の場合、「増えた」と答えた人が41.8%なのに対し、「減った」と答えた人が31.6%となっている。

 

夫が退職すると妻は自分の自由時間が増えるものと予想しがちだ。だが、現実にはそうとは限らないことがわかる。

 

なぜ、夫の退職で妻の自由時間が増えるとは限らないのか。その理由は、退職後に自宅にいる時間が長くなる「自宅引きこもり派」が結構多いからだ。

 

図表2は、「1週間のうち、夫が家にいるのはどの程度か」の調査である。これによれば「ほぼ毎日家にいる」が38.5%、「家にいる方が外出より多い」が25.0%で、両者を足すと何と63.5%の夫が「自宅引きこもり派」なのである。

 

会社を辞めた途端、「夫がずっと家にいて、朝から晩まで一日中テレビがついている」とこぼす妻は結構多い。こうした「自宅ひきこもり派」の夫がいる場合、妻が一番負担に感じるのは「食事の手間」が増えることだ。

 

「お願いだからお昼だけは外で食べてほしい」と夫に頼む例も多い。また、夫に料理の仕方を教える人もいるがマスターするまで3~5年かかったという例も少なくない。年齢層が若くなるにつれて、男性でも料理する割合は増えていくが、団塊世代以上の年齢層では、まだ少数派なのが現状だ。

 

夫の退職で伸びる中食市場

 

レディーミールこのような状況から、最近「中食(なかしょく)」市場を狙った動きが増えている。中食とは、総菜やコンビニ弁当などの調理済み食品を自宅で食べることをいう。

 

イオンの「レディーミール」、セブン&アイの「セブンプレミアム」、ローソンの「ローソンセレクト」などスーパーやコンビニが小容量の煮魚や煮物など中高年が好む商品開発に注力している。

 

7プレミアム手間はかからないが価格も高くつき、栄養バランス面からも頻繁にはできない「外食」と、美味しくて栄養バランスも良いが手間のかかる「内食」との「いいとこどり」をいかに実現するかが勝負となる。

 

以上からお分かりのように、家族のライフステージが変わることで当事者である本人に新たな消費が発生する。シニアの消費は「年齢」ではなく、「変化」で決まることを肝に銘じるべきだ。