保険毎日新聞 連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第2回  

imageシニア本人が意外に知らない要介護になる原因

 

シニアの生活上の不安は1つめが健康不安、2つめが経済不安、3つめが孤独不安である。3つめは、生きがい不安と言ってもよい。これは日本だけでなく、欧米でもアジアでも共通だ。ある程度生活水準が似ていれば、人間が齢を取ると必要になるものは似てくるのだ。

 

図表1は内閣府による調査(平成21年度)だが、「自分や配偶者の健康や病気のこと」、「自分や配偶者が寝たきりや身体が不自由になり、介護が必要な状態になること」が上位に挙がっている。一方で、私が知る限り、何が原因で「要介護状態や寝たきり」になるのかをきちんと理解している人は少ないようだ。

 

厚労省国民生活基礎調査(平成22年)によれば、介護が必要になった主な原因の第一位は男性が脳血管性疾患、女性が認知症だ。脳血管性疾患は脳卒中と呼ばれ、脳こうそく、脳出血、くも膜下出血などがある。第二位は男性が認知症、女性が脳卒中。ただし、認知症の原因の三割が脳卒中なので、男女とも脳卒中の割合が大きいと言える。

 

第三位は高齢による衰弱だが、特に「サルコペニア」と呼ばれる加齢に伴う筋肉量の減少が主な原因と言われている。第四位はひざや腰などの関節疾患、第五位は骨折・転倒。これら五つで要介護状態になった原因の七割程度を占めている。

 

これでお分かりのように要介護状態になった原因の第一位と第二位が脳の病気、第三位から第五位が運動器の病気であることがわかる。ということは、脳と運動器とを適切に維持できれば、要介護状態になるリスクはかなり下がるのだ。

 

ここでシニア層の運動器障害に話を絞る。実は、私たちの身体は30代を過ぎると普通に生活をしているだけでは筋肉量が減ってくる。60代になると6割、70代になると5割になるというデータもある。しかも、下半身のほうが落ちやすい。かつ男性よりも女性のほうが落ちやすい。だから、転倒骨折は高齢の女性に多い。ところが、ほとんどの人が加齢とともに自分の身体にこうした変化が起こることを知らないのだ。

 

homai130515中高年女性の運動器障害という「不」の解消をビジネスにしたカーブス

 

そこで、こうした運動器障害の改善をビジネスにして大成功した事例を紹介したい。「カーブス(Curves)」という女性専用のフィットネスクラブのチェーンである。このチェーンには、全世界で400万人以上が通っている。利用者の平均年齢は58歳である。このカーブスは、私が2003年に日本で初めて紹介したものだ。2005年7月に、カーブス・ジャパンが東京・戸越公園に1号店を開いて以来、2013年4月現在で1273店舗、会員数は53万人を超えるまでになった。

 

実は、世の中でフィットネスクラブに通う人は100人に3人しかいない。私もこれまでにフィットネスクラブに通ってはやめる、ということを何度も繰り返したことがある。その最大の理由は、時間がかかる割に効果が上がらず、単調で退屈のために、継続するモチベーションが下がることだ。気分がスッキリするという点ではいいのだが、減量という面では苦痛の割に効果が出にくく、すぐ挫折しやすいのだ。

 

中高年女性の心をつかんだ「スリー・ノーM」

 

ところが、カーブスでは筋トレと有酸素運動とを交互に行ないトータル30分で完結できるのが特徴だ。これだと忙しい人でも通いやすい。加えて、女性が続けやすい「スリー・ノーM」という特徴がある。まず「ノー・メン」、男性がいない。男性が運動機器に触って汗が付くのが嫌だ、あるいは男性に運動している姿を見られるのが嫌だという要望に応えている。次に「ノー・メークアップ」、化粧する必要がない。女性だけなので化粧せずにすっぴんでも来ることができる。これで時間がかなり節約できる。そして「ノー・ミラー」、鏡がない。自分が運動している姿を鏡で見たくないという人が多いのだ。

 

これ以外にも、続けやすい環境をいろいろと整えている。店の立地は住宅地のそばにあり、通いやすい。また、通っている人同士がゆるやかに友だちになれるコミュニティも形成している。2011年に大震災が起こった時には、全国中の店舗を起点にして会員が寄付や援助の品物を集め、被災者支援も実施している。

 

成果を得るのに不要な物は全部排除

 

一方、施設面では、成果を得るのに不要な物は全部排除してコストダウンに努めている。たとえば、通常のフィットネスクラブに必ずある温浴施設はない。シャワーすらない。私が当初カーブスの話を日本で始めた頃、多くの人に「村田さん、このカーブスって面白そうだけど、日本は湿気が多いし、日本の女性は清潔好きだからシャワーくらい要るんじゃないの?」と何度も言われた。

 

しかし、結論は「不要」。トータル30分で終わるためにちょっと汗ばむ程度なので、店にシャワーがなくても誰も文句を言わないのだ。むしろ、水回り施設がないので投資が少なくて済む。水回り施設があると衛生管理が必要となり、メンテナンス費用も大きくなる。従来型の大きなジムには立派なプールや温浴施設があるが、おかげで莫大な投資が必要になり、衛生管理やメンテナンスにもお金がかかる。カーブスは、その逆の発想なのだ。

 

また、飲食スペースもない。実はこれは結構重要だ。なぜかと言うと、飲食スペースがあると、女性はそういうところにたまって、〝食っちゃべり〟をするからだ。すると“閥”ができるようになる。そうすると、他の人から「あの人たちって、いつもああやって集まっていて、何か嫌よね」というように見られ、他の人が来づらくなる。その“閥”をつくらせないために、あえてスペースを置かないのだ。

 

ちなみに、コミュニティをビジネスに利用する「コミュニティビジネス」と呼んでいるものには、すべて同じ落とし穴がある。だから、これを避ける工夫が重要だ。

 

カーブスは、中高年女性の既存のフィットネスクラブに対する「不満」の部分を徹底的につぶしていった。そうしたら、「中高年女性にやさしいフィットネス」という新しい市場ができたのだ。健康のためのサービスという意味では普通のフィットネスクラブと同じだが、できあがった市場は従来のものとはまったく違う。なぜなら、カーブスの場合、およそ9割のユーザーが普通のフィットネスクラブに行ったことがない人たちだからだ。

 

このように、シニアビジネスの基本は「不」の発見だ。身近な生活周りの「不」を見つけ、それを緻密につぶしていく。オーソドックスに思われるかもしれないが、これが過去15年間シニアビジネスに取り組んできた私の正直な実感だ。

 

シニアビジネスを視野に入れたときに「不」の解消が必要になることは、保険業界も例外ではないだろう。保険商品の「不」は何か、考えるときが来ている。

 

 

シニアシフトの衝撃

 

保険毎日新聞社