安倍首相が招かれたビーコンヒルという街の知られざる側面

スマートシニア・ビジネスレビュー 2015年4月30日 Vol.210

ケリー私邸2日前にアメリカ訪問中の安倍首相夫妻がマサチューセッツ州ボストン市のビーコンヒルにあるケリー国務長官の私邸に招かれたというニュースを見てはっとした。

11年前に、私はこのケリー長官の私邸の前を歩いていたからだ。歩いていた理由は、当時設立間もない「ビーコンヒル・ビレッジ」というNPOの人たちに案内されたからだ。

ビーコンヒル・ビレッジとは、高齢化した街の住民にCCRCのような高齢者施設で受けられるのと同様のサービスを提供しようというものだ。

その時の状況を拙著「シニアビジネス:多様性市場で成功する10の鉄則」(ダイヤモンド社)で次のように紹介している。

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ビーコンヒル・ビレッジのエグゼクティブ・ディレクター、ジュディ・ウィレット氏は次のように語る。

「ビーコンヒルは、古くからある高級住宅街で、約八平方キロの地域に九〇〇〇人が住んでいます。その一四パーセントの一三〇〇人がすでに六〇歳以上となっていますが、大半が年老いてもCCRC(Continued Care Retirement Community継続ケアつきリタイアメント・コミュニティ)などの施設に行かず、ここに住み続けたいと思っています。『ビレッジ』という名称は、CCRCと同等の継続ケアや生活支援サービスが受けられる仮想的なリタイアメント・コミュニティをつくるという考えに基づいています」

ケリー国務長官の私邸CCRCでは、自立的な生活ができる人が入居する「インディペンデント・リビング」、日々の生活介助が受けられる「アシステッド・リビング」、専門的な介護が受けられる「ナーシング・ホーム」の三種類が同一敷地内にある。特徴は、その名のとおり、元気なうちに入居して、いざ介助や専門的な介護が必要になった時も、その施設で継続してケアが受けられることである。

アメリカが日本と異なるのは、国による介護保険が存在しないことだ。高齢者は、民間の高額な長期ケア保険に加入するか、加入せずに、必要な時に高額な費用を支払うかのどちらかとなる。だが、CCRCでは、入居一時金を払うと、要介護状態になっても、原則として追加費用が必要ない。このような金銭的メリット感が、アメリカでCCRCが高齢者の有力オプションの一つになっている理由である。だが、すべての高齢者が望んでいるわけではない。

ビーコンヒル・ビレッジが住民にうけている理由は三つある。第一に、「ビレッジ・コンシェルジュ」という充実した生活支援サービスの提供。食料品などの買物代行、交通手段、自宅でのハンディマン・サービス、処方箋薬の手配など、日々の生活に欠かせないサービスをひとまとめに電話一本で提供する。足腰の弱りで外出がおっくうになりがちな高齢の会員にとって、ビレッジ・コンシェルジュが、生活周りの世話役となっている。

第二に、コミュニティ・サービスの充実。ビーコンヒル・ビレッジの売りは、地域住民との相互交流を促す仕掛けを多数提供していることだ。週一回のウォーキング、フィットネス教室、私設コンサートやボート上でのディナーなどが目白押しだ。CCRCなどへ入居するいちばんの理由は、一人暮らしの寂しさに耐えられないことであり、そこでは入居者同士でのディナーやイベントが多い。ビーコンヒル・ビレッジでは、それと同じことを街全体で実施している。

第三に、会員向け割引。年会費五〇〇ドル(約六万円)を払えば、これらのコミュニティ・サービスだけでなく、すべての個人向けサービスが通常の一〇パーセント引きとなる。一人では得られないメリットがビーコンヒル・ビレッジ加入の大きな動機となっている。また、その手配に手間がかかるためにサービスが利用されないことはよくある。ビーコンヒル・ビレッジは、そんな人向けのガイド役にもなっている。
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なぜ、ビーコンヒルでは、こうしたサービスが生まれて来たのか。最大の理由は、ここの住民は子供の世話にはなりたくないが、CCRCのような施設で暮らすのも嫌だという人が多いためだ。こうした傾向は何もビーコンヒルに限らない。AARPの調査によれば、アメリカ人の45歳以上の83%が可能な限り長く自宅に住み続けたいと思っている。

その後10年経ち、「ビーコンヒルモデル」と呼ばれるこの仕組みを自分たちの地域でも取り入れようと、 コネティカット州ニューカナン、ニューヨーク州ブロンクスビル、 バージニア州アレクサンドリア、カリフォルニア州パロアルト、ワシントンDCのキャピトルヒルなど全米20以上の地域で同様の取り組みが普及した。

このように他地域に広まる動きは、一体何を意味しているのか。それは端的に言えば、 既存のCCRCに対する高齢者の不満の表れだ。高齢者だけが市街地から隔離されたところに集められて、お仕着せの食事やサービスが提供される。こうした既存のCCRCでのライフスタイルへの嫌悪感なのだ。

最近日本でも本家アメリカのCCRCを導入しようとする動きが見られる。しかし、その本家アメリカで、10年以上前から上述の「ビーコンヒル・ビレッジ」のようにCCRCを否定する動きが登場している。そして、その動きが全米20カ所以上に普及している事実は日本ではほとんど知られていないようだ。

ケリー長官に招かれた安倍首相もそんなことは知る由もなかっただろう。

シニアビジネス:多様性市場で成功する10の鉄則

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