介護ロボットが必要な本当の理由

スマートシニア・ビジネスレビュー 201317 Vol.189

 

浴室用介護リフト介護ロボットが必要な理由とは何でしょうか?

 

15日の毎日新聞に『<介護ロボット>8割が肯定的 「気を使わないから」』という記事がありました。この記事が引用しているのは、昨年11 1 日にオリックス・リビングが発表した調査。全国の40代以上の男女1238人を対象に実施した介護に関する意識調査です。

 

調査によれば、介護ロボットによる身体介護を「積極的に受けたい」「受けてもよい」と回答したのは男性78.7%、女性73.6%。年齢別にみると、50代男性では84.6%が介護ロボットに肯定的な回答を寄せています。

 

介護ロボットに肯定的な人に理由を聞くと、約9割が「ロボットは気を使わないから」「本当は人の手がいいが、気を使うから」と回答しています。

 

このように、介護ロボットが必要な第一の理由は、介護を受ける人の「心理的負担」の軽減です。

 

介護をする人の「肉体的負担」の軽減が重要

 

前掲の記事でも触れられているように、介護現場では職員の約7割が腰痛に悩んでいます。

 

実際に介護をやってみればわかりますが、赤ん坊と異なり、介護対象者である大人は重たい。特に男性は女性より重い。しかも、しがみついてくる場合も多く、ただでさえ重たい身体がさらに重く感じます。こうした「重たい人」を移動させたり、担いだりせざるを得ないことが多く、どうしても腰痛が多くなってしまうのです。

 

このように、介護ロボットが必要な第二の理由は、介護を行う人の「肉体的負担」の軽減です。高齢者施設経営者の立場では、職員の労働環境の改善による労災事故の防止となります。

 

介護ロボットの普及が進まない理由

 

一方、これだけのニーズがある介護ロボットですが、介護現場で商業利用されているものは、まだ、ごくわずかなのが現状です。

 

普及が進まない理由は、介護現場には「人の手による介護が一番」という考えが浸透していることに加え、介護ロボットの大部分が介護保険の適用外となっており、介護施設側に高額の費用負担が求められること、などが挙げられます。

 

また、商品化が進まない理由は、商品開発者であるメーカーと商品利用者である介護施設などとの「シーズとニーズのギャップ」が大きいことなどが挙げられます。この詳細については、次のビジネスレビューをご一読ください。

 

「技術」を使った「革新」のあるべき姿

高齢化対応ロボットは誰のために?

 

 

介護ロボットは海外への輸出商品になる

 

しかし、こうした課題がありつつも、介護ロボットが必要だと私が考える本当の理由は、海外への輸出商品になるからです。

 

14日の日経産業新聞に「大和ハウス工業、高齢者などの排せつを支援するロボットを海外でも販売へ」という記事がありました。

 

マインレットこの商品は、仙台に本社のある株式会社エヌウィックが商品化した「マインレット爽」というものです。大和ハウス工業が昨年秋にエヌウィックと資本提携し、総販売代理店になっています。

 

実はこの商品は、数年前にデンマークの工業技術院が来日した際に興味を持ち、デンマークで実証試験を行ってきた経緯があります。

 

高福祉国家として有名なデンマークも、今後の高齢化の進展で介護スタッフの不足や介護コストの増加が予想されています。このため、どうしても人手が必要な作業は人間が担い、そうでない作業は極力ロボットなどに代替させることを、国を挙げて取り組んでいます。

 

デンマークのような福祉先進国ですら、ロボット技術という点では、常に日本の動きを注視しています。実は私も昨年はデンマークとスウェーデンのメディアから何度か取材を受けました。

 

同じことがアメリカやアジア諸国にも言えます。特にここ数年アジア各国でも日本のシニアビジネスに対する関心が高まっており、私の所にも技術を用いた介護関連サービスに関する照会が増えています。

 

これから世界中で起こるシニアシフトで介護ロボット市場が広がる

 

2030年までにアフリカや中近東を除く世界の多くの国が「高齢化社会」(全人口に対する65歳以上の人口の割合が7%を超える社会)に突入します。ますます混沌とする世界情勢のなかで、世界中で確実な構造的変化は「人口動態のシニアシフト」なのです。

 

だから、企業の皆さんは、いまのうちに切磋琢磨して、自社の商品・サービスに磨きをかけるべきです。そうすれば、それらの商品・サービスは、一定の時間差をおいて「人口動態のシニアシフト」に直面する他の国から必要とされるようになるのです。

 

私は、こうした理由から介護ロボットの商品化を進めるべきだと考えています。

 

 

シニアシフトの衝撃 エピローグ これから世界中で起こるシニアシフト

毎日新聞 1月5日<介護ロボット>8割が肯定的 「気を使わないから」