世界中で起きつつあるシニアシフトと広がる市場機会

保険毎日新聞連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第12

香港街並み世界から注目されている日本のシニアビジネス動向

 

日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、2013年現在、推計で25・1%に達した。この数値は世界一である。この「超高齢社会・日本」の動向は世界各国から注目されている。

 

私は、直近の3年間だけでも、アメリカ、イギリス、ドイツ、スイス、韓国、シンガポール、香港で開催された国際会議やカンファレンスに何度も招待講師として招かれている。また、EUやスウェーデン大使館、イタリア大使館などから講演会に招かれる機会も何度かあった。

 

さらに、アメリカ、イギリス、スウェーデン、デンマーク、ブラジル、シンガポール、香港、中国、韓国のメディアからも何度か取材を受けている。

 

香港高齢者施設 こうした講演や取材での共通の関心事は、日本の高齢化に伴う課題とその解決策について意見が聞きたい、というものだ。国際会議では、常に日本との比較、日本の話題が登場し、日本に対する高い関心を身に染みて感じている。

 

また、特に最近はスウェーデンやデンマークのような、日本が羨んできた高福祉国から日本のシニアビジネス動向について尋ねられる機会が増えていることに驚く。

 

このように世界から注目される理由は、よくも悪しくも日本が高齢社会に必要なことの「ショーケース」となっているからだ。年金などの社会保障の課題だけでなく、個人の健康や生活設計に対するニーズには「世界共通」のものが多い。だから日本をじっと見ていれば、自国の近未来の姿が見えてきて、自国で課題が顕在化する前に対策を講じることができるのだ。

 

ところが、この世界一の超高齢社会・日本ですら「人口動態のシニアシフト」に対して、「企業活動のシニアシフト」は一部の企業と業種を除いて遅れ気味だった。本連載でこれまで述べたように、ようやくそれが本格的になってきたところなのだ。とはいえ、世界中を見渡して、これほどまでに「企業活動のシニアシフト」が活発になっている国は日本以外にはまだ見当たらない。

 

シニアビジネスで、日本は世界のリーダーになれる

 

私は、高齢社会対策、特にシニアビジネスの面で、日本は世界のリーダーになれると真面目に考えている。その理由は、日本で揉まれたシニアビジネスが世界で通用するからである。そのポイントは2つある。

 

第1に、日本では高齢化の課題が世界のどこよりも早く顕在化する。これは裏返せば、シニア分野でのビジネスチャンスが世界のどこよりも早く顕在化することを意味する。だから、常に世界に先駆けて商品化でき、いち早く市場に投入できる優位性がある。

 

第2に、これまで述べたとおり、シニア市場とは多様な価値観を持った人たちが形成する「多様なミクロ市場の集合体」であること。この「多様性市場」には、きめ細かな対応力が求められるが、日本の高度な集積化技術と、日本人の細やかな情緒感覚がこの対応力の源泉となる。日本は、シニアビジネス分野で他国に対して優位に立てる素地を十分に持っているのだ。

 

「企業活動のシニアシフト」は、これから他の国でも必ず起こる

 

国連の定義によれば、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」という。ちなみに21%を超えると「超高齢社会」というが、日本は2007年から超高齢社会になっている。皆さんは、2030年までにアフリカや中近東を除く世界のほとんどの国が「高齢化社会」に突入することをご存じだろうか。ますます混沌とする世界情勢のなかで、確実な構造的変化は「人口動態のシニアシフト」なのである。

 

したがって、日本で本格化した「企業活動のシニアシフト」は、これから他の国でも「人口動態のシニアシフト」につれて一定の時間差をおいて必ず起こる。特に高齢化率の高いヨーロッパでは、近い将来間違いなく起こる。

 

だから、日本企業は、いまのうちに切磋琢磨して、自社の商品・サービスに磨きをかけることだ。そうすれば、それらの商品・サービスは、一定の時間差をおいて「人口動態のシニアシフト」に直面する他の国から必要とされるようになる。

 

私は、アメリカで日本の高齢化の話をする時に、「皆さん、私は“明日”からやって来ました。私たち日本は、皆さんの“未来”を生きています」とジョークを飛ばすことがある。これは単に時差の関係で常に月日の到達が早いだけでなく、高齢化の面でアメリカよりも日本が先を行っていることを強調したいためだ。

 

シニアビジネスは、「タイムマシン経営」によって規模がグローバルになる

 

つまり、シニアビジネスは「タイムマシン経営」によって、規模がグローバルになるビジネスなのだ。ここでいう「タイムマシン経営」とは、高齢化に伴う課題に真っ先に直面する日本でまず商品化し、それを一定の時間差をおいて同様に高齢化に直面する他の国や地域に水平展開するという意味の筆者の造語だ。

 

すでに一部の介護サービス企業が、中国などに進出しているのは、この「タイムマシン経営」に近いものと言えよう。

 

一方、以前紹介したユニ・チャームは、日本国内では市場が縮小している赤ちゃん用おむつに代わって大人用おむつで市場を拡大しつつ、海外の新興国では赤ちゃん用おむつの市場を拡大している。

 

この場合の優位点は、おむつの原料が赤ちゃん用も大人用もそれほど変わらないことだ。つまり、赤ちゃん用の経営資源を大人用に振り替えることで国内でも市場を拡大し、海外では従来の商品を投入して市場拡大を図るやり方だ。これも効率のよい「タイムマシン経営」の1種である。

 

シニアビジネスは、「グローバル・ライフサイクル・ビジネス」になる

 

さらに、これを一般化すれば、従来子供用に提供していた商品を大人用に切り替えることで大人用市場を拡大しつつ、海外の新興国では従来の子供用商品を投入して市場拡大を図るビジネスモデルになる。そして、その新興国が高齢化したら、日本で練り上げた大人向け商品を、満を持して投入すればよい。

 

こうして見ると、シニアビジネスは、「時間的な垂直展開」と「地理的な水平展開」とによって、グローバル規模で顧客のライフサイクルにわたるビジネスになるのだ。このように考えると市場可能性は無限大に広がり、暗いイメージに陥りがちな高齢化に明るい希望を見出すことができる。

 

保険業界にも同じことが言え、日本でシニアのニーズに応えて練り上げた保険商品は、必ず一定の時間差をおいて他の国への転用できるはずだ。これから本格的にシニアシフトに取り組もうという企業は、ぜひ、こういう発想で事業を構築してほしい。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

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