販促会議5月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 第三回 

hansoku_cover_5第一回で述べたように、シニアの消費は「本人のライフステージの変化」に大きく影響を受ける。この変化には退職、転職、転勤、住宅ローンの終了、子育て終了、入院、要介護状態などがある。今回はボリュームゾーンの団塊世代の多くが直面している「退職」に焦点を当てる。

 

1.退職をきっかけとする消費には3つのパターンがある。

 

退職をきっかけとする実際の消費行動には、ある程度共通の傾向が見られ、おおむね①健康維持型、②老後準備型、③趣味・自分探し型の3種類になる。

 

図表1は電通が、退職者が退職をきっかけに実際に行った行動を調査したものである、一番多いのが「夫婦での旅行」である。これは退職後の定番商品で、退職した人の多くが必ず行うもので、③趣味・自分探し型と言える。

 

二番目の「散歩・ジョギング、ラジオ体操など」は、①健康維持型である。三番目の「家のリフォーム」は、老朽化した屋根や壁などの修繕、子供部屋の趣味部屋への転換などで、②老後準備型と③の中間と言える。四番目の「株やファンドの購入」「保険の見直し」は、経済面での②老後準備型である。

 

退職をきっかけとするこれらの消費の特徴は、第一に、時間の制約からの解放がきっかけになっていることだ。これは退職して自由時間が増えることで、フルタイム勤務時にはできなかったことが可能となり生まれる消費である。

 

第二に、比較的高額商品であることだ。退職金というまとまった臨時収入が得られることで瞬間的に可処分所得が増え、財布の紐が緩むためだ。ということは、退職時期以外には起きにくい消費形態である。

 

だから、ターゲット顧客がいつ退職するかを予想し、タイミングよく告知することが重要となる。


2.「ダウンサイジング」が退職後の消費を促しやすい

 

一般に退職後は収入が年金依存になり、実入りが減る。するとそれに合わせて出費も抑えるようになる。この結果、いわゆる生活の「ダウンサイジング」(規模の縮小)を行なうようになる。これが新たな消費を促す。

 

hansoku5その代表例は、プリウスなどのハイブリッド車やワゴンRのような軽自動車である。維持費がなるべくかからないようにしたいので、燃費の良いクルマがよい。子供も巣立ち、家族で遠出をする機会も減ったので、車両サイズは小さくていい。こうしたダウンサイジング消費は、退職直後から半年くらいの間に結構見られる。

 

郊外の広い一戸建てから都心のコンパクトなマンションに住みかえるのも、ダウンサイジングの例である。一方、都市部の借家から郊外の借家に移り住むケースもある。持家でないので毎月のフロー出費である家賃を抑えるためだ。

 

また、年配者のなかには、よりシンプルな生活を求め、所有していた家具類を処分し、身軽な生活を好む人も少なくない。こうしたシンプルライフを支援する収納や保管サービスなども広義のダウンサイジング商品と言えよう。

 

3.商品によって告知に適するメディアが異なる

 

サラリーマンの場合、退職年齢は一般に60歳~65歳の間が多い。このため、ターゲット顧客の年齢と誕生日がわかれば、退職予想日の前後6か月程度に項目1で挙げたような商品・サービスを告知すれば、通常期間に告知するよりも顧客のアンテナにひっかかりやすくなる。

 

旅行商品は新聞などのマス・メディアや店頭カタログなどで告知するのが一般的である。ところが、シニア層をメイン顧客にしているクラブツーリズムでは、「旅の友」という独自の冊子を制作し、ダイレクトメールで配布している。さらに、首都圏では「エコースタッフ」と呼ばれる顧客が、有償ボランティアで配布している。これは顧客が商品提供側の当事者になることで、口コミ効果と顧客参加ロイヤリティを強める優れた方法である。(詳細は拙著「シニアシフトの衝撃」ダイヤモンド社参照)

 

一方、リフォームの場合は、顧客によって求められるリフォームの仕様が多様なことと、リフォーム工事業者が地域密着型の場合が多いことから、マス・メディアより折り込みチラシや口コミによる情報伝達が有効だ。最近はネット上で複数のリフォーム業者から見積もりを取得できるサイトなども登場しているが、リフォームの場合、決まった商品がないので、その工事業者がどの程度信頼できるかで判断されやすい。

 

4.シニア層が好む言葉、嫌う言葉に注意する

 

例えば「アクティブシニアのための旅行」と言われても、具体的なイメージが湧かない。何が売りなのか、訴求点を具体的に明示する方がよい。

 

旅程がタイトで移動回数が多いものは好まれないので「ゆったり旅」や「ゆとりの行程」など、自分たちの体力に合わせて無理なく楽しめることがわかる表現がよい。

 

また、「ぜいたくな旅」というよりも「全航路一等船室利用」「全行程グリーン車利用」など、実際にぜいたくな旅であることが直接わかる言葉の方がよい。

 

一方、バスを使う旅行では「トイレ付」という言葉があるだけで、特に女性に安心されやすい。シニアにはトイレが近い人が多いからだ。

 

中高年を対象に商品・サービスを提示する場合、特定の年齢訴求が受け入れられる場合とそうでない場合がある。こうした特定の年齢訴求アプローチが受け入れられるのは、明らかに経済的メリットがあると感じられる場合だ。

 

たとえば、映画や劇場、散髪などのシニア割引が該当する。JR東日本の「大人の休日倶楽部」は、特定の年齢に達した人向けの鉄道運賃の割引という古典的な例だ。

 

これらのように該当者にとって経済的メリットが感じられる場合、特定の年齢を訴求されても受け入れられる。逆にいえば、メリットがないのに特定の年齢を訴求するのは慎重に行う方が良い。

 

5.入院・要介護状態への変化でニーズが激変する

 

ここまで述べた内容は、まだ元気で自立して生活できる人の場合である。個人のライフステージの変化のうち、入院や要介護状態に変化した場合、生活ニーズが大きく変わる。

 

生活のあらゆるシーンで、家族など他人によるサポートが必要となり、それが新たな消費需要を生む。これは介護する側から見れば、家族のライフステージの変化による消費需要と言える。これについては、次回詳細を述べる。

        

 

参考:シニアシフトの衝撃 超高齢社会をビジネスチャンスに変える方法