510シルバー産業新聞連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第86

ス―パーのそばによく見られる空き地60歳以上の人の「正味金融資産」の合計は482兆円

 

総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)のデータをもとに算出すると、1世帯当たり「正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)」の平均値は、60代で2093万円、70歳以上で2145万円。

一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成22年(2010年)によれば、世帯数は60代で1083・6万世帯、70歳以上で1191・1万世帯である。これらより、60歳以上の人の「正味金融資産」の合計は、482兆2884億円となる。

 

シニア資産30%の消費は、国家予算1・6倍分のインパクト

 

さて、60歳以上の人が保有する正味金融資産合計482兆2884億円のうち、仮に正味金融資産合計の3割、144兆6865億円が消費支出に回ったとすると、2011年度の一般会計90兆3339億円の1・6倍にもなる144兆6865億円という金額が実体経済に回ることになる。

ただし、シニア層が正味金融資産を多く持っているからといって、それがすべて消費に結びつくわけではない。また、先行き不透明感がますます強まるなかで、60歳以上の人すべてに正味金融資産の3割どころか、2割を消費に回してもらうことすら現実的でないという意見もあろう。

 

2014年はさらなる「企業活動のシニアシフト」が重要

 

2014年には団塊世代の最若年層がいよいよ65歳で定年を迎える。先月には消費税増税があり、アベノミクスで上り調子になってきた消費が減速するという見方もある。しかし、瞬間的に多少消費を控えたとしても、たとえば、退職直後は必ず旅行などにそれなりのお金を使う。何と言ってもこの層は他の年齢層に比べ正味金融資産が大きいからだ。

とはいえ、こうした資産は将来への備えでもあるので、むやみやたらと消費しない。売る側は、顧客の心理をよく理解したきめ細かい工夫が必要だ。そうしたそれができれば、ビジネスチャンスはまだまだたくさん眠っている。

だからこそ、ここに「企業活動のシニアシフト」の大きな意義がある。商品の売り手である企業が積極的にシニアシフトに注力することによって、買い手であるシニアは、より価値の高い商品や利便性の高いサービスを得られるようになる。

つまり、シニアが必要としていたが、これまで市場にはなかった、より付加価値の高い商品・サービスが多く登場するようになる。すると、「そう、こういう商品が欲しかったのよ」という機会が増え、結果としてシニアの消費も増えると予想される。

 

商品を売りたい企業はシニアの仕事の機会をつくれ

 

一方、シニアの消費を促すためには、売る側だけの努力では不足だ。買い手側の条件をよくすることも必要である。

本連載で何度か説明した通り、資産は多くとも所得の少ないシニアは、日常生活における出費は月の所得、つまり、年金収入の額にほぼ比例する。平均的にはあまり高額でない年金収入のなかでやりくりしているため、どうしても日々の出費は倹約気味になっている。

そこで、年金以外の副収入を得る機会を提供すれば、可処分所得が増えるので消費が促されやすくなる。健康のためにもお金のためにも、自らが主体的に仕事の担い手になることが最もリーズナブルな選択だからだ。

たとえば、スーパーに隣接する空き地を活用し、顧客の中から野菜づくりをする人を募集し、育った野菜をスーパーで販売するのはどうだろうか?このようなビジネスモデルでは、野菜を作った人たちは若干の収入を得られるだけでなく、売り場の商品配置などのアイデアも提供するようになる。自ら売場に立って、自分の野菜を売ることも起きるだろう。

その結果、当事者意識が芽生え、口コミによる宣伝効果も期待できることに加え、そのスーパーからもっといろいろ買うようになるだろう。

このように、これからは商品を売りたい企業がシニアに仕事の機会を創造するビジネスモデルをつくることが有効となる。それがシニアの消費を促すことになるからだ。



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